新型コロナの影響下で迎えた2020年夏のお盆シーズンは、一部の知事や専門家から帰省・旅行の自粛が要請された。例年の帰省ラッシュは影を潜め、列車や飛行機は閑散としていた。
しかしお盆が終わって公表された鉄道と航空、そして高速道路の利用状況を比較すると、コロナを気にしながらも遠出はしたいという人々の複雑な心理が見え隠れする。
鉄道・航空は7~8割減 しかし道路は...
JR各社が発表したお盆期間(8月7日~8月17日)の鉄道利用状況を見ると、各社とも前年比4分の1近くにまで落ち込んでいる。長距離輸送の核になる各新幹線は東海道新幹線76%減、山陽新幹線77%減、東北新幹線79%減、九州新幹線72%減といった衝撃的な数字が出ている。在来線特急も低調で、JR四国の予讃・土讃・高徳各線の特急は前年比67%減少、JR北海道の函館・室蘭・根室各線の特急は54%減少を記録した。1987年のJR発足以来の深刻な落ち込みである。
航空各社の8月7日から16日にかけての国内線利用状況は、ANAが前年比69.6%減、JALが66.9%減少と大手2社は約7割の需要が消失。スカイマークは59.4%減、ジェットスター・ジャパンは47.5%減と発表された。これは国内線のみのデータであるから、国際線も含めればさらに前年比で減少していることになる。鉄道と同レベルの落ち込みぶりを示している。
一方、高速道路の統計は違う実態を示している。NEXCO3社と瀬戸大橋を管轄する本四高速から8月7日~8月16日の交通状況が17日に発表されたが、主要な高速道路交通量の減少幅は33%減にとどまった。
主要区間で測定された1日平均の交通量(通過台数)を見ていくと、最も交通量が多かった東名・名神の場合、東名高速の秦野中井IC~大井松田IC(ともに神奈川県)間で前年比75%、静岡IC~焼津IC(同静岡県)間で同66%の交通量をキープしている。
名神高速の彦根IC~八日市IC(同滋賀県)間でも前年比68%、大山崎JCT(京都府)~高槻JCT(大阪府)間で同79%であり、東名・名神と並行する東海道新幹線が前年比24%にまで落ち込んだのとは対照的だ。交通量で見ると、以下九州道の太宰府IC~筑紫野IC(ともに福岡県)間(前年比75%)、中央道相模湖IC(神奈川県)~上野原IC(山梨県)間(同79%)と続く。東名高速・中央道とも都市部に近い区間の方が例年通り混雑している傾向がある。
ほとんど交通量が減っていない区間もあり、東京湾アクアラインの川崎浮島JCT(神奈川県)~海ほたるPA(千葉県)間は前年比96%、阪和道のみなべIC~紀伊田辺IC(ともに和歌山県)間は同96%の交通量だった。阪和道は行楽地の和歌山・白浜温泉へのアクセス路線であることも影響しているだろうか。
渋滞は大幅に減ったもののある程度発生している。10㎞以上の渋滞は昨年の436回に対し149回、うち30㎞以上の渋滞は39回に対し6回である。特に長かった渋滞として8月16日中央道上り日野バス停(東京都)付近での43.3㎞に及ぶ渋滞、8月14日関越道上り川越IC(埼玉県)付近での35.8㎞の渋滞などが発生した。
読み取れる「恐怖感」
鉄道・航空に比べると高速道路の交通量は減っていない。ここから、人々はある程度旅行を控えつつも、旅行のニーズ自体は消失したわけではないと考えられる。前出の渋滞の8割が首都圏で発生したという結果もNEXCO3社から発表されたが、長距離の遠出ではなく車での近距離の旅行を選択した人が少なくなかったとみられる。各地で感染者増加の報道が相次ぎ、一部の知事が独自に自粛要請や緊急事態宣言を行ったことで長距離の旅行を控える消費者心理が未だ根強い。
鉄道でも長距離列車に比べると、近距離特急の東海道線「踊り子」は前年比44%、外房・内房線の「わかしお」「さざなみ」が同44%に踏みとどまっているし、JR西日本の京阪神エリアは前年比56%の利用状況で同社の山陽・北陸新幹線より状況は良い。
もう一つ読み取れるのは、公共交通への恐怖感である。鉄道・航空が前年比7~8割減という大打撃を受けたが、不特定多数が集まり長時間乗る交通機関への忌避感も強くあるだろう。新幹線や飛行機より、少人数で乗るマイカーの方が安心できるという心理が、お盆の人々の移動状況の背景にあるようだ。
Go Toトラベルキャンペーンや鉄道・航空各社の破格の格安プランも展開されているが、交通機関が需要を取り戻すのは、コロナ感染状況が落ち着くだけでなく、密になりやすい公共交通への忌避感が薄れてからの話になりそうだ。