候補者調整で「予備選」が大事な理由
―― そんな中で膠着している合流協議なのですが、どのように見ていますか(編注:その後、国民の玉木雄一郎代表は8月11日、立憲から提示された合流条件に同意する一方で、自らは合流新党に参加せず、分党する考えを表明した)。
山尾: 今はこれだけコロナの状況でかなり生活不安が高まっている中で、国民は野党の政局には興味がないと思うんですね。そういう状況の中でなお合流に向けた交渉をするということであれば、それは野党議員の議席維持のためなのか、それともまとまることによって今コロナの状況の中で国民生活を支えきるための具体的な活動ができるのか、というようなところを国民は見ていると思うんです。例えば玉木さんは経済と憲法について言及していますが、合流をすることによってコロナ禍の中で、なんとか自営業の方も含めて見通しが立てるように、不安が少しでも払拭できるように積極的な給付に踏み込んでいくとか、場合によっては一時的な消費減税にも踏み込んでいく、といったことです。このように、なかなか政府が望まない、積極的に踏み込まない提案を実現するためにはバラバラではなくて「大きなかたまり」で声を一つにして迫っていく必要があるので、「大きなかたまり」としての合流をします、というようなことであれば、まだ納得がいくと思います。それをなしに「党名がどうの」とかいう話は、国民から見たら全く関係のない話です。
―― そんな中でも解散総選挙の話がちらつきます。合流するにしてもしないにしても、小選挙区では野党は候補者調整をしないといけません。7月22日付けの毎日新聞「政治プレミア」のインタビューでは、予備選の必要性を唱えていました。これは重要な指摘だと思いました。
山尾: 予備選は大事です。香港でもあれだけ政府の弾圧を受けて大きなプレッシャーを受けながら民主派の候補者は予備選をやり抜きました。米国でも、アレクサンドリア・オカシオ・コルテスというバーテンダー出身の候補者が民主党の予備選を勝ち抜き、ベテランの現職男性議員を民意で押しのけて議席を取っています。「野党共闘」という言葉を使うかは別として、死に票を減らして民意と議席を近づけるために一定の野党内の候補者一本化は必要だと思います。ですが、その一本化の過程が、野党内の閉鎖空間で行われているのだったら透明性を持った民主主義の主張に反するとも思うので、その一本化のプロセスもきちんと透明化して、そこに民意を入れるということは大事だと思うし、結果的に世代交代も進むと思います。
―― 例えばある小選挙区で、立憲、国民、共産でガチンコで予備選をして、立憲の人が勝ったとします。プロセスを透明にする分、「自分は共産党支持者だけど、『本番』の選挙では立憲の人を応援するよ」と、気持ちよく票を投じられるようになるかもしれません。
山尾: いわゆるベテラン議員が選挙区内の議席をずっと確保しておきながら、一方で野党がなかなか弱い選挙区では、複数のまだ経験を積んでいない候補者が並び立って、どっちの候補者が下げられるのかどうかも、いわばその野党内の外側から見えない力関係で決まっていく。このプロセスは全く民主的じゃないと思いますよね。
―― 与野党ともに党首選はそれなりに報道されるので、予備選をやれば、野党への注目も増すかもしれません。
山尾: 単に「擁立が決まった」という記事を読んでも、何の期待もわかないですよね。
―― そうですよね、確かに。そういう仕組みができたら面白いですが、制度設計は大変そうです。それに、永田町には魑魅魍魎がたくさんいるので、どうしたら...。
山尾: そういうことです。その魑魅魍魎を一掃するために世代交代が必要なんです。透明なプロセスでやっていくしかありません。
山尾志桜里さん プロフィール
やまお・しおり
衆院議員、1974年生まれ。東大法学部卒。検事を経て、2009年に衆院愛知7区から出馬し、初当選。民進党政調会長などを歴任。20年3月に立憲民主党を離党し、7月に国民民主党に入党。通算で現在3期目。