不安な企業の採用計画を前に、新卒生の空前の売り手市場が終えんを迎えた。 リクルートワークス研究所が2020年8月6日に発表した「大卒求人倍率調査(2021年卒)」によると、21年春卒業予定の大学生・大学院生に対する企業の求人数は、前年と比べて15.1%減の68万3000人だったことがわかった。
来春大卒求人、コロナ禍で15%減 企業に慎重姿勢
リクルートワークス研究所の2021年春(来春)卒の求人倍率の調査は、今年6月時点の状況。2月時点の調査では1.72倍だった。新型コロナウイルスの感染が広がり、事態が深刻化した4月、政府の緊急事態宣言による企業への移動制限や休業、外出自粛の要請などで経済活動が停滞。景況感の不透明さが強まったことで、採用に意欲的だった企業が求人数を急きょ減らしたり、慎重姿勢に転じたりしたことが要因とみられる。
学生の就職希望者数は、来春卒が前年比1.7%増の44万7100人。これに対して企業の求人総数は、20年卒が80万4700人だったが、来春卒は68万3000人で15.1%減少した。
就職希望者1人当たりの求人数を表す求人倍率は、2020年卒は1.83倍だったが、これが来春卒には0.3ポイント減の1.53倍となり、急落。求人数が10%以上落ち込んだのは、リーマン・ショックの影響が及んだ2011年春卒以来で10年ぶりという。
求人倍率の推移をみると、リーマン・ショックの影響が出る前の2008、09年が2.14倍と最高を記録。その後3年連続で低下。12年の1.23倍を底に、人手不足を背景として7年連続で上昇したが、20年に8年ぶりに低下した。ただ、「1.53倍」の水準は、バブル崩壊後やリーマン・ショック後より上回っている。
リクルートワークス研究所は、
「求人倍率は低下したものの、バブル崩壊後の景気停滞期やリーマン・ショック後のような落ち込み幅ではない。コロナ禍でも一定水準の新卒採用は維持されている」
と分析している。
「職務(JOB)」を明確化した採用スタイル
J-CASTニュース 会社ウオッチ編集部の取材に、企業の新卒採用について、レポート「人手不足に拍車をかける『新卒採用の2021年問題』」(2019年2月発表)で、21年の新卒採用の変化に警鐘を鳴らしている横浜銀行グループのシンクタンク、浜銀総合研究所調査部のシニアエコノミストの遠藤裕基さんも
「2021年卒(の新卒採用)は方向としては悪くなっているかもしれませんが、それでも状況としてはとても就職氷河期とはいえません」
と話した。
そもそも「新卒採用の2021年問題」とは、2010年代に横バイが続いた22歳の「新卒人口」が、2021年には前年比で1万6000人減の122万8000人(見通し)になることをきっかけに、22年にはさらに1000人減り、その後の減少で30年には110万9000人と、2020年から13万4000人も減ってしまう現象のこと。
レポートでは企業の人手不足に拍車がかかることに警鐘を鳴らしていたが、コロナ禍でその流れが止まったわけではないようだ。
こうした人口動態から、2022年卒以降も企業は獲得できる人材が減るため、そのための対策を打たねばならない。それが、(1)ワークライフバランスの徹底を図る(2)大卒以外の採用方法の模索(たとえば高卒や外国人採用)(3)中途採用への注力――などの手段だという。
ただ、こうした企業の対応が就活生をピリピリさせ、不安な状況に追い込んでいる。遠藤さんは、
「内定がとれる学生ととれない学生の2極化は、ますます進むと考えられます。大卒は増えましたが、企業の基準にかなう学生は減っています。だからこそ、外国人や高卒の確保を企業が進めるようになっています」
と話し、コロナ禍の影響でそういった変化がより顕著になってくるとみている。
さらに、コロナ禍で広がったテレワークの進展で企業が積極化している「JOB(ジョブ)型採用」が就活生を悩ませそうだ。
「JOB型」採用は、文字どおり「職務(JOB)」を明確化して、その仕事を遂行できる人と契約を結ぶ採用スタイルで、仕事がなくなれば、欧米企業のように解雇される可能性もある。入社段階でどんな仕事をするかが決まっていない新卒一括採用型ではなく、その人に備わっているスキルやキャリアを重視する採用方法だ。
どちらかといえば、転職者に有利といえそうで、「テレワークによって業務の明確化が進んだことが、JOB型採用の動きを後押しするかもしれません」と、遠藤さんは話す。
つまり、日本型の新卒一括採用型が崩れるばかりではなく、「自分ができること」「生かせる仕事」を見つけて、磨いておかないと、就活のスタートラインにも立てなくなるかもしれない。そんな時代がやって来るかもしれないのだ。