岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち カマラ・ハリス候補を、街の人たちはどう見ているのか

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トランプ支持者のハリス観は...

   そのあとで、星条旗がデザインされたTシャツ、膝丈のパンツ姿の白人男性を見かけた。ニューヨークではほぼ9割がマスクをしているが、彼は付けていなかった。

   トランプ支持者だろうか。大きな政府を嫌う共和党支持者の中には、「政府に指示されたくない」と、マスクを付けるのを拒否する人が少なくない。

   さっきよりさらに距離を取りながら、ハリス氏指名についてどう思うかと声をかけると、戸惑った様子だった。民主党色の濃いニューヨークでトランプ支持者だと知られたくないのかもしれないと思い、「この連載では何度も支持者の声を取り上げている」と話すと、快く応じてくれた。やはり、トランプ氏を支持しているという。

「ジェンダーと人種が理由で、カマラは選ばれたんだ。それって、逆差別じゃないのか。ほかにこれといった業績はない。バイデンは急進派の操り人形で、大統領になったら実質的に政権を握るのは、背後にいる急進左派だ。高齢だし、何かあれば、カマラが大統領になる。バイデンは、少なくとも2期目はないだろう。カマラが大統領になったら、民主党はますます急進的になっていく。そうなったら、この国にもう希望はないよ」

   彼の言い分は、トランプ氏の民主党批判と重なる。

   バイデン氏は長年、政治に携わってきたこともあり、新鮮さや熱いものが感じられない。しかもコロナ感染を恐れ、何か月間も自宅にこもってリモートで発信していただけで、最近はとくに存在感がない。

   一方、ハリス氏は明るく覇気があり、精力的に見える。2018年秋に上院司法委員会で行われた最高裁判事指名公聴会では、ブレット・カバノー氏を舌鋒鋭く追及した。2019年夏には、民主党討論会でバイデン氏をやり込めた。しかし、ハリス氏自身、犯罪取り締まりの姿勢が一貫性に欠けたことなどで、批判もされている。

   今回、警察の暴力が問題になってから、警察に対するハリス氏の見解が以前とは一転しているとの指摘もあるが、州司法長官としての経験が警察改革に生かされる強みがあるかもしれない。バイデン氏の女性スキャンダルの影を薄くするために、民主党にとって女性の副大統領候補は必至だったとの見方もある。

   2016年の大統領選では、民主党支持者の間でもヒラリー・クリントン氏に反発を感じる人が少なくなかった。いくつものスキャンダルや「上から目線的な態度が鼻につく」など理由はさまざまだが、ハリス氏にはもっと親しみを感じるという人もいれば、「これからいろいろ、共和党に叩かれる材料が出てくるだろう」と推測する人もいる。

   指名の翌々日に、ベンチでサンドイッチを食べていたメキシコ出身の50代くらいの男性は、民主党支持者だったが、「アメリカ人女性には、まだ大統領になるような本当の強さがないよ。クリントンもハリスもダメだ」とバッサリ切り捨てた。

   アメリカ人は大統領に「強いリーダーシップ」を求めている。しかし、女性がリーダーシップを取ることに抵抗を感じるアメリカ人男性は、いまだに多い。

   ハリス氏は中道と左派の間で揺れてきたが、バイデン氏とともに党を1つにまとめ、無党派層を取り込み、共和党に切り込めるのではと期待する人もいれば、その手腕はないという人もいる。

   いずれにしても、性別と人種も重要だが、副大統領としての資質が評価されるべきだ。

   役者が出揃い、大統領選まであと3か月を切った。いよいよこれから、山場を迎えようとしている。

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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