カマラ・ハリス氏は「黒人の女性として初の副大統領候補」と、米国でも日本でも盛んに報道された。が、それは誤りで、「共和党・民主党の2大政党で初」の黒人女性の副大統領候補ということになる。2000年の大統領選で改革党のパット・ブキャナン氏が、副大統領候補に女性で黒人のエゾラ・フォスター氏を選んでいる。いずれにしても、民主党に新しい息吹をもたらしたかに見えるハリス氏。彼女の指名を、一般のアメリカ市民はどう受け止めているのだろうか。
「まさに今、私たちに必要」「同じ黒人ではない」
2020年8月11日、ハリス氏の指名が発表になると、トランプ大統領に批判的な、私の友人のアメリカ人女性たちは、初の黒人大統領誕生となったバラク・オバマ氏の時代と、ヒラリー・クリントン氏が果たせなかった初の女性大統領の誕生が、一度に訪れたかのように、喜んだ。
その翌日、ニューヨーク市にいた私は、買い物に行ったスーパーで一緒に働いていた女性店員2人に、ハリス氏指名についてどう思うか聞いてみた。3人ともマスクをしているが、十分な距離を取って話しかけた。
1人はヒスパニックらしき女性で、ハリス氏についてほとんど知らないようだった。もう1人の黒人女性サーシャ(20代)は、5月に黒人差別に抗議するデモに参加したと言い、興奮を抑えられない様子で早口にこう話した。
「マイノリティの女性で、強い意志と行動力のあるカマラみたいな人が、まさに今、私たちに必要なのよ」
私が「『Black Lives Matter(黒人の命を軽んじるな)』の運動が大きなうねりを見せている時だから?」と聞くと、サーシャは大きく2度、うなずいた。
「カマラは名門の黒人大学に行って、ロースクールで法律を学び、州の司法長官になった。黒人女性が直面するハンディキャップを自ら乗り越えてきたから、私たちを代弁できるし、私のような若者にとっていいロールモデルになるはず。バイデンは高齢だし頼りないけれど、カマラがついていれば、トランプを打ち負かせると信じている」
ハリス氏は、インド出身の母親とジャマイカ出身の父親を持つため、移民の声も代弁できる。ともに学者である両親に連れられて、幼い頃から公民権運動のデモに参加していた。
ロースクールを卒業後、カリフォルニア州サンフランシスコ市の地方検事、同州司法長官を経て、上院議員とキャリアを重ねた。今回、大統領選の候補を選ぶ民主党予備選に出馬したが、資金不足を理由に2019年12月に撤退している。
スーパーでの買い物を終えて家路に向かう途中で、30代くらいの黒人男性とすれ違った時、ハリス氏について意見を聞いてみた。
新型コロナウイルス騒動以来、人とのコミュニケーションは極端に減ったものの、ニューヨークでは比較的、気軽に他人同士が言葉を交わす。
その男性は「イエス、マーム」と答えた。南部の人たちは、このような丁寧な受け答えをする。ニューヨークでは、まず聞かない。
ウィリーというその男性は、仕事で南部ミシシッピー州から来ているという。
ハリス氏に対する彼の反応は、サーシャとは違った。
「僕は見た目がもろに黒人だから、いろいろ嫌な目に遭ってきました。白人やヒスパニックに目の前で中指を立てられて、『ニガー』と呼ばれたり。容姿が典型的な黒人に見えないカマラは、僕みたいな経験はしてこなかったと思います。祖先が無理やり奴隷として連れて来られた僕らとは、同じ黒人ではない。人種差別主義者のトランプには、もう大統領を続けてほしくない。でも、カマラは社会的弱者に厳しいと言われているし、エリートの彼女に僕らの気持ちがわかるはずがない」