セブン&アイ・ホールディングス(HD)が、米石油精製大手マラソン・ペトロリアム傘下の米コンビニ3位「スピードウェイ」を210億ドル(約2兆2000億円)で買収することが決まった。2020年2月に「交渉」が伝えられものの、セブンの取締役会で井阪隆一社長らの買収方針への慎重論がぬぐえず、一度は頓挫していた。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって歴史的な原油安の中で本業の石油精製が苦戦するマラソンからの再度の提案を受けて改めて交渉し、合意に達した。
セブン&アイの時価総額(約250億ドル)に迫る巨額買収で勝負に出た形だ。井阪社長は「新型コロナウイルス感染症の終息はまだ見えていないが、5年後、10年後の成長を見据えたうえで、今回の買収は千載一隅のチャンスだった」(8月3日の会見)と、意義を強調している。
買収後は店舗数で2位を大きく引き離す
スピードウェイは米国に3900店をもち、9000店で1位の米セブン-イレブンと合わせて約1万3000店近くとなり、2位に7000店差と大きく引き離す。逆に言えば、他社に買収されれば首位の座が脅かされる恐れもあったということになる。米国での同業の買収では、2018年、スピードウェイと同様にガソリンスタンドを併設する店舗1030店を31億ドル(当時の為替レートで3400億円)で買収したのに続く。
米セブンの2019年12月期は、売上高361億ドル(約3兆8100億円)、営業利益11億ドル(約1160億円)。スピードウェイは売上高268億ドル(約2兆8300億円)、営業利益11億ドルで、買収によって営業利益は倍増する計算だ。スピードウェイはガソリンスタンド併設が収益の支えだが、セブンは、電気自動車(EV)の比率が高まってガソリンの需要が減るといっても、米国の人口増加ペースを考えればにわかに影響はないと見ている。
今回の買収の最大の懸念は、額の大きさだ。2月に頓挫した時点で220億ドルを目安に交渉していたのに対し、10億ドル「値切る」ことに成功したが、それでも、1店舗あたりにすると5億6700万円になり、2018年の1030店買収時の3億5400万円に比べて割高と指摘される。これについてセブンは、(1)米国での節税効果30億ドル、(2)重複する店舗約200店の売却10億ドル、(3)不動産など資産を売却しリース契約で借りるセール&リースバックで50億ドル――の効果が見込め、実質的な買収額は120億ドルまで下がるとしている。これなら1店舗あたりも3億3000万円になり、成功した2018年と同レベルになる。
今後の成長のカギ握る「商品力」
もう一つの焦点が、「日本流」の経営の浸透だ。大手3社による寡占化が進む日本と違い、米コンビニ業界は総店舗が15万店、首位のセブンでもシェアは6%程度で、広い国土とあって、日本のようにきめ細かい効率的な配送は難しい。そこで、重要なのは、やはり商品力。ガソリンスタンド併設が多く、ガソリンを入れる際の「ついで買い」が多いともいわれるだけに、より魅力的な商品をいかに増やしていくかが、今後の成長のカギを握るだろう。
この点についてセブンは、スピードウェイでの商品売り上げの増加などによって、2025年2月期には4億7500万~5億7500万ドル(約500億~600億円)の利益を押し上げるシナジー効果を見込んでいる。
いろいろ課題はあるが、国内市場が成長鈍化する中、海外強化は必然だ。2019年末時点でコンビニ主要7社の国内店舗数は5万5620店、年間売上高は11兆円にまで拡大してきたが、近年は主要都市の好立地が減り、少子高齢化の進展もあって、店舗数も、1店舗当たりの売上高も頭打ちの状態だ。店舗従業員の人手不足、配送トラックのドライバー不足による物流コスト上昇などの逆風も吹く。今回の買収でセブンの営業利益に占める北米事業の割合は24%から33%に増えるというのは、国内の低迷の何よりの証明ともいえる。