2020年8月15日 に行われた全国戦没者追悼式で天皇陛下が述べた「おことば」では、公の場での発言としては初めて新型コロナウイルスの感染拡大に言及した。戦没者の追悼を趣旨とする式典で、それ以外の事柄について言及するのはきわめて異例だ。
昭和史に向き合ってきたことで知られ、J-CASTニュースで「保阪正康の『不可視の視点』 明治維新150年でふり返る近代日本」を連載中のノンフィクション作家・保阪正康さんに、その思いを読み解いてもらった。
「基本的な枠組みは昨年と変わらない」が...
天皇陛下は19年の戦没者追悼式から「おことば」を述べている。その内容の多くは、19年4月に退位した上皇さまが天皇として述べてきた内容を引き継いだものだ。とりわけ、戦後70年の15年から登場した「深い反省」という表現や、上皇さまが天皇として最後に臨席した18年に登場した「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」という表現は、天皇陛下の「おことば」でも2年連続で登場している。こういったことを背景に、保阪さんは「基本的な枠組みは昨年と変わらない」とした上で、天皇陛下が「平成の天皇の精神を継承されることを明確にしている」ことを強調している。
一方で、例年の「おことば」は3つの段落で構成されているが、20年は段落をひとつ増やして新型コロナの問題にあてている。保阪さんは、この大きな変化で「戦争時の苦難にこのコロナ禍は匹敵するとの重さがあると言いたいのではないか」とみる。その上で、今回の「おことば」の中の呼びかけは、「天皇の国民への強い励まし」との見方を示している。
保阪さんの談話は以下のとおり。
「全国戦没者追悼式での『おことば』は、戦争への反省という基本的な枠組みは昨年と変わらないように思う。コロナ禍について、これまでほとんど国民向けのメッセージは発表されていなかったが、今回のおことばで、初めて具体的に触れられている。その点が注目される。国民誰もがともにこの困難な状況を乗り越えて、これまでと同様に『幸せと平和を希求』することを心から願っているとの意味は、戦争時の苦難にこのコロナ禍は匹敵するとの重さがあると言いたいのではないかと、私には思えた。重要なことは、戦争を含む過去の反省、そして戦陣に散り、戦火に倒れた人たちへの哀悼のお気持ちは平成の天皇の精神を継承されることを明確にしている事である。それが国民の心に響くと同時に、新たな苦難を乗り切っていく支えになるとの呼びかけは天皇の国民への強い励ましであろうとも思える」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)