新型コロナウイルスの影響で、鉄道大手20社は2020年4~6月期に全て最終赤字となった。基幹事業の運輸業が前年同期比で30%~70%台の減収となった影響が大きい。企業でテレワークの導入が進み、大都市圏の路線で通勤客が減ったこと、「移動自粛」で旅行・出張向けの新幹線・特急の利用も減ったことが響いている。緊急事態宣言の解除後、売り上げは戻りつつあるものの、テレワークは定着しつつあり、また旅行客の戻りも鈍い。
8月12日までに各社の連結決算が出そろい、JRの主要4社と大手私鉄16社について分析した。20社が四半期決算で全て赤字になるのは初めてだという。赤字幅は合計で約5054億円にもなる。
コロナで外出・移動自粛、JR東海は売り上げ73%減
連結売上高が前年同期比で最も落ち込みが大きかったのがJR東海で、73%減の1287億円。主力の東海道新幹線が、コロナ禍での外出・移動自粛で「ビジネス、観光ともにご利用が大幅に減少した」(JR東海)ため、運輸部門の営業収益が前年同期比で78%減の798億円にとどまったことなどが響いている。
同様に新幹線を抱えるJR東とJR西も、連結売上高はともに55%減。通勤路線も含め、「鉄道のご利用の落ち込みが極めて大きい」(JR西)という。バス事業を含めた運輸部門の営業損失(赤字)は、JR東が1629億円(前年同期は1082億円の黒字)、JR西は868億円(同じく561億円の黒字)だった。東北新幹線や北陸新幹線、山陽新幹線などで観光、出張ともに利用が激減したという。
私鉄各社も厳しい。近鉄グループホールディングスは前年同期比で62%減の1139億円。通勤路線での減収に加え、例年は5月のゴールデンウィークの時期に増える沿線の京都、奈良、伊勢などへの観光客の特急利用が、20年は大幅に減ったという。
他も、西武ホールディングスが前年同期比で54%減の663億円となるなど、各社とも厳しい。鉄道部門の営業収益は各社とも35~50%減った。
観光より通勤・通学利用の割合が多い東急は前年同期比で25%減の2097億円だったが、鉄道・バスなど交通事業の営業収益は43%減の300億円となった。
定期代の支給やめた企業も 通勤路線に打撃
通勤路線での落ち込みの要因は、やはり企業が進めるテレワークだ。国の緊急事態宣言が出ていた4~5月、鉄道は時間帯問わず、どの路線もガラガラだった。この間、交通費の社員への支給をしなかった企業も多く、東急の場合定期券収入は前年同期比で39%減った。小田急、京王もそれぞれ33%減だった。
テレワークの定着が進むと、通勤路線を抱える鉄道会社への影響は大きくなる。鉄道は、燃料代などが膨大な航空機と異なり、1運行あたりの費用は電気代や乗務員らの人件費くらいだ。とはいえ、それも安定的な定期代の収入があってこそだ。
大手企業でも、テレワークの代わりに定期代の支給を取りやめる例が出ている。富士通は7月6日に「ニューノーマルにおける新たな働き方『Work Life Shift』を推進」と題した報道資料を発表。約8万人の従業員をテレワークにし、月額5000円の在宅勤務手当の代わりに、「通勤定期代の支給廃止」とある。
例えば、JR東の東京―新宿間(約10キロ)は月の定期代が5930円だ。10キロより遠い場所から通勤する人も多く、月額5000円程度の在宅勤務手当を出す方が、結果的に企業にとっては大きな経費削減となる。
鉄道会社側も対策を取り始めている。
JR東は7月7日、深沢祐二社長が定例記者会見で、「以前のように利用客は戻らないと思う」との見通しを示し、通勤・帰宅で利用客が多い時間帯と、少ない時間帯で運賃が変動する新たな料金体系を検討する可能性を示した。「3密」を少しでも緩和し、通勤客の利用を促す施策と言える。