高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
国内景気は欧米より「まし」 経常収支「黒字の減少」を読む

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   財務省は8月11日、2020年上半期の国際収支統計の速報値を発表した。日本と海外との物やサービスの取引、投資収益の状況を示す経常収支の黒字は、前年の同時期と比べ31.4%減少、7兆3069億円となった。

   この結果だけを聞くと、黒字の減少は悪いことのように感じてしまうだろう。これは、「黒字」という言葉による印象だ。

  • 財務省から国際収支統計の速報値が出された
    財務省から国際収支統計の速報値が出された
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黒字は「得」、赤字は「損」とする間違い

   経常収支は、輸出と輸入の差額である貿易収支、訪日観光客の旅行費の受取支払などの差額であるサービス収支、対外投資の利子配当金の受取支払などの差額である所得収支の合計である。

   そもそも貿易収支(経常収支でも同じ)の黒字を「得」、赤字を「損」と考えることは間違いであり、これを経済学では「重商主義の誤謬」といい、18世紀までは正しいと信じられてきたが、今では誤りだ。貿易収支の黒字は輸出のほうが輸入より多いということを示しているだけで、別に国にとって得でも損でもない。たとえば商品の売買でみると、売る店が「黒字」で買う顧客が「赤字」になるが、店が得をして顧客は損をしたとはいわない。

   例えば、国の経済状態は経済成長率でみることができるが、長期的に見ると、経常収支の大小はその国の経済成長率の動向とは関係ない。カナダは100年以上も経常収支赤字であったが、その間経済成長をしていた。また、アイルランド、オーストラリア、デンマークなどの経常収支は第2次世界大戦以降、だいたい赤字であるが、それらの国が「損」をしてきたわけでもない。むしろ経済状況は良かったので、国民としてはハッピーだっただろう。

輸入はそれほど減っていない、つまり...

   今回の経常収支減少をどう読むのか。それは、その中身をみればいい。大きく輸出が減少しているが、輸入はそれほど減っていないというのが今回の特徴だ。それに、訪日観光客が減っているのも寄与している。輸出が減るというと、訪日観光客が減るのは、モノとサービスという違いはあるが、外国での需要が減っているという意味では同じだ。外国の需要が減るのは、コロナによるモノやサービスの制限も一部原因であるが、基本的には外国の景気がよくなく、日本製を買わないからだ。これは外国の所得(GDP)が減少しているときによく見られる現象だ。

   一方、輸入がそれほど減っていないというのは、日本の所得(GDP)は減少しているが、外国ほど酷くないことを示している。つまり、経常収支黒字の減少は、日本は海外より景気の点では、ましなことを意味する。

   米国の4-6月期実質GDPが年率▲32.9%(年率換算、以下同じ)ユーロ圏が▲40.3%となった。日本の4-6月期GDPの一次速報は、8月17日に発表される予定だ。1-3月期と比較すると、▲25%~30%程度と大幅に減少するだろう。4-6月期GDPの数字自体は百数十兆円もあり、水準は戦後最悪ではないが、1-3月期からの伸び率▲25%~30%程度はおそらく戦後最悪だろう。しかし、それでも欧米に比べるとまだましだ。

   まあ、戦後最悪であるが、海外よりは少しましというのは、目くそ鼻くその議論かもしれないが、「川を上り海を渡る」(歴史を調べ海外を調べる)から現状を正しく認識するためには指摘しておきたい。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「FACTを基に日本を正しく読み解く方法」(扶桑社新書)、「明解 経済理論入門」(あさ出版)など。


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