報道の「幕の内弁当」化
インターネットやSNSの普及と並行して日本のメディアに起きたことは、報道の「幕の内弁当」化だと澤さんは指摘する。
読者や視聴者が知りたいことよりも、他社が報じることを落とすまいという意識が先行する。個性的であることより、他社と比べて目立ち過ぎないように気を遣う。
とりわけ、新聞が何度も活字を大きくした結果、文字数がどんどん削られ、記事が一口サイズになった影響が大きい。
「記者からすると、10行でも200行でも、取材には同じ手間がかかるが、総じてコンパクトにフルセットで情報を提供するという傾向が強まった。卵焼きも鮭も、漬物もあります、というわけです。しかし、すべてのメディアが同じことをすれば、多様化する読者の関心には応えられず、飽きられてしまいかねない」
澤さんは、デスク時代に、「こんな記事を、だれが読むのでしょう」と記者に聞かれ、「他社にはない、こんなネジまで揃っているということを見せるのが通信社だ」と答えたことがある。そのことは、今も間違っていないと思う。だが同時に、他社を意識して、全社が同じように品ぞろえをしようとすれば、新聞は個性を失い、「幕の内弁当」化に拍車がかかるという。