保阪正康の「不可視の視点」
明治維新150年でふり返る近代日本(52)
第3期国定教科書が促した「市民社会の自覚」

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関東大震災が大正デモクラシーに与えた影響

   関東大震災については、様々な尺度で詳細に分析できるのだが、あえてここでは一点に絞って論じよう。それはこれまで述べてきたように国家に対する個人(いわばそれが自立する市民の誕生という意味になるのだが) に重きをおく潮流ができた、という意味である。同時にこのことは社会が経済的に安定していることが前提でもあった。

   第1次世界大戦時に、日本は好景気に見舞われた。ヨーロッパでの戦争は、日本が重工業から日常の消費物資までの供給地になる意味もあった。日本は特に造船、海運などの伸びが著しかった。その好景気が戦争終結後に一気に萎んだのである。失業者が増加するなど社会は混迷というべき状態にもなった。こういう時期に共産党が密かに結成されるなど、反政府運動が広がりを見せることになった。中間層の中に、こういう社会主義的な思想に関心を持つ者が増えていったのである。

   関東大震災はこのような時期に起こった。あえて一点に絞って論じるというのは、この大地震がそうした運動に対する「力による弾圧」の図を描いたという点である。この点をまずは分析しておくことにしよう。(第53回に続く)




プロフィール
保阪正康(ほさか・まさやす)
1939(昭和14)年北海道生まれ。ノンフィクション作家。同志社大学文学部卒。『東條英機と天皇の時代』『陸軍省軍務局と日米開戦』『あの戦争は何だったのか』『ナショナリズムの昭和』(和辻哲郎文化賞)、『昭和陸軍の研究(上下)』、『昭和史の大河を往く』シリーズ、『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)『天皇陛下「生前退位」への想い』(新潮社)など著書多数。2004年に菊池寛賞受賞。

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