新型コロナウイルス感染拡大防止策として、吉村洋文大阪府知事らが会見で使用を推奨した「ポビドンヨードうがい薬」の需要が大きく増加し、製薬会社の中には出荷制限をする社もあることが分かった。
J-CASTニュースが複数の製薬会社を取材したところ、会見内容について大阪府・市側から「事前に聞いていなかった」という。問い合わせや新規の注文が増え、各社対応に追われている。
「事前に会見内容は一切聞いていません」
吉村知事、松井一郎大阪市長、府立病院機構大阪はびきの医療センターは2020年8月4日の会見で、ポビドンヨードうがい薬でうがいを続けることにより、唾液検体のPCR検査で、新型コロナウイルス陽性者の割合が大きく減ったとの研究結果を発表。吉村知事は「薬事法上、効能は言えない」と断りながら、「ポビドンヨードうがい薬、代表的なのは『イソジン』だが、こういったうがい薬で8月20日まで集中的にうがいを励行してもらいたい」と府民に使用を呼びかけた。
松井市長は会見で「古くからあるうがい薬なので、増強ラインができれば量産できる。増強ラインを作るのにそんなに時間はかからないと確認している。無理な買い占めをしなければ、このうがい薬がなくなることはあり得ない」と増産体制に自信を見せていた。
ポビドンヨードうがい薬は複数の製薬会社が製造・販売しているが、会見後に需要が急増。日医工(富山市)の広報担当者は6日、J-CASTニュースの取材に「新規の卸業者からも問い合わせが殺到しています」とした上で、「既存の得意先様に最優先に供給できるよう、新規の業者様の受注は制限させていただいています」と明かした。それでも「得意先様に100%十分な供給量は確保できていません。過去の購入量の実績などに応じ、出荷を調整しています」という。
「そんなに時間はかからない」うちに量産できるかどうかについては、「他の医薬品とのバランスを加味しながら安定供給しないといけない。たとえば今日明日で増産できるようなものではないと思います」と話す。吉村知事が会見で、同席した数名にしかポビドンヨードうがい薬をめぐる情報を共有していなかったと述べたとおり、「事前に会見内容は一切聞いていません」(日医工の担当者)とのことだった。
もともと需要「高止まり」でフル稼働なのに...
医療用医薬品(処方薬)を手がけるMeiji Seika ファルマ(東京都中央区)の広報は取材に、ポビドンヨード製剤について「安定供給上の在庫の問題はありませんが、一過性の受注増加があったため、8月5日午後に『出荷調整』のご案内を出しています」と明かす。通常の発注量で問題が起きることはないが、製品の偏在を防ぐための措置。「過剰な量の発注があった場合、注文量に対して出荷量を調整することがあります」と話した。
同じ明治グループで一般用医薬品(市販薬)を手がける明治(東京都中央区)の広報は、「出荷制限はしていません。というより制限できる状況ではありません」と取材に話す。というのも、新型コロナウイルスの感染が広まってきた2月ごろから現在まで、同社ではうがい薬の需要が高止まり。工場をフル稼働して生産を続けており、「備蓄や在庫を抱えられる状態ではない」という。
つまり、もともと生産能力をフル活用して供給していたところに、8月4日の会見でさらなる需要が加わった。これ以上の増産は「現状検討しておらず、増産の打診も受けていない」(明治の広報)という。ポビドンヨードうがい薬でのうがいを励行することは「皆様と同じで、会見で初めて知った」(同)とのことだった。
吉村知事が会見で製品名を出した「イソジン」の販売・流通を手がける塩野義製薬(大阪市)(製造はムンディファーマ)は、「一般用のイソジンは品薄状態で影響が出ています。医療用のほうは通常通り供給できています」と話す。一般用については「在庫をすべて出さないと追いつかない状況。品薄、ニーズにこたえられるよう生産体制の構築を進めています」との見通しを示した。
大阪府・市の会見内容はやはり事前には知らず、「お問い合わせはかなり頂いておりますが、お答えできないことが多いです」(塩野義製薬の広報)と現状を明かした。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)