ポビドンヨードを含むうがい薬によるうがいの励行を吉村洋文大阪府知事が会見で呼びかけた2020年8月4日から、全国的にうがい薬の品切れが相次いでいる。同時に、現場で消費者対応するドラッグストアの店員が悲鳴をあげている。
J-CASTニュースの取材に応じた東京都内のドラッグストア店員は、吉村知事の会見前日に比べて「10倍ほど」の問い合わせが来たと話す。2月下旬に起きたトイレットペーパーが不足するとされたデマ騒動と「まったく同じ状況」。買い求める客の気持ちは理解しているものの、「落ち着いて行動してほしいということと、満足のいく回答が店舗側から得られなくても罵声を浴びせないでほしいと思いました」と疲弊した状況を明かす。
「残念ながら日本人はマスク騒動から何も学んでいなかったようです」
吉村知事、松井一郎大阪市長、府立病院機構大阪はびきの医療センターは2020年8月4日の会見で、新型コロナウイルス陽性者41人を対象に実施した研究の結果を発表。ポビドンヨードうがい薬を使って1日4回うがいをした群は、しなかった群に比べ、唾液検体によるPCR検査での陽性者の割合が大幅に減ったという。
吉村知事は「薬事法上、効能は言えない」と断りながらも、「ポビドンヨードうがい薬、代表的なのは『イソジン』だが、こういったうがい薬で8月20日まで集中的にうがいを励行してもらいたい。それによってどこまで効果が出るかは分からないが、何とか大阪での感染拡大を抑えていきたい」と、ポビドンヨードうがい薬の積極的な使用を推奨。一方で「不必要な買い占めはぜひやめていただきたい」とも呼びかけた。
だが、この発表直後から、各地のドラッグストアでうがい薬を買い求める客が殺到。買い占め騒ぎが起こる事態になった。ツイッターでは陳列棚に客が密集する様子や、売り切れた棚の写真が相次ぎ投稿された。
その結果、負担を強いられることになったのが小売店の店員だ。ツイッター上では「#ドラッグストア店員の気持ち」というハッシュタグの投稿が散見され、現場の店員が悲鳴をあげている。
「今日品出しをしていたら、突然イソジンと呟きながら、たくさんの人が来て、店中のイソジンが消えました。イソジンの有無の電話も鳴りやみません。高額転売がはじまりました。残念ながら日本人はマスク騒動から何も学んでいなかったようです」
「今日のイソジン騒動で、めっちゃ密になった。私達店員の感染リスクもさらに上がった 元々無かったものが更に入ってこなくなる。マスクパニックの時も同じやけど明日からまたオープン前に並んでるんやろなと思うとホンマにゾッとする 入荷未定です!の対応で仕事は進まない」
「マスク トイレットペーパー 体温計......次はなんですかと来たら、うがい薬ですか。理由はポピドンヨード?(編注:原文ママ)成分がどうだとか。100本近くある在庫が全て消えて......ひと家族1つで足りませんか?1日1本使いますか?買いだめですか?」
「情報に対する取捨選択をできない方に、残念な気持ちが強かった」
東京都内のドラッグストアに勤務するツイッターユーザー「ねが」(@Oa_Nega)さんも、同ハッシュタグで投稿した1人。吉村知事らの会見とその報道直後から、店内のうがい薬コーナーに客が密集。マスクをしていない客もいたという。
「問い合わせの電話も鳴り止みませんでした。なんてことをしてくれたんですか。ようやく元に戻りつつあった棚がめちゃくちゃです」
そんな胸の内を吐露した投稿は6万7000リツイート、11万5000「いいね」されるなど拡散(5日夜現在)。さらに、「本日箱マスクの販売もしていたんですけど、みんなマスク素通りしてこぞってうがい薬に群がっていましたよ。『明日開店前に並ぶわ!』って言っているお客様もいましたよ」「毎回毎回毎回毎回毎回毎回品薄になる・欠品になる商品扱ってるのドラッグストアなんですよ。今年の1月からずっと戦ってきて、ようやくここ最近物流落ち着いてきて、しんどかったメンタルも回復してきたのに」と、店で起きたことや率直な心境をつづった「ねが」さん。ユーザーにこう呼びかけた。
「このツイートを見た方が1人でも多く、『店舗への電話への問い合わせ及び在庫ないの攻撃』をしないように心がけてくださると店員としてはとても助かります...」
「ねが」さんは5日、J-CASTニュースの取材に対し「マスク、アルコール類の件で問い合わせの電話は毎日入っておりますが、4日はそれに加えてうがい薬の問い合わせがありました。問い合わせ数の詳細な数は覚えていませんが、前日までの10倍ほどだと思われます」と大量の問い合わせがあったことを明かす。次回の入荷予定日、いつ売り切れたか、他に代用できるものはないか、などの質問がひっきりなしに届き、疲弊したという。
「『またか...』という思いが強かったです。以前もSNSで『ペーパー類が不足する!』というデマが流れた際に、まったく同じ状況が起きました。情報に対する取捨選択をとることができない方に対して、残念な気持ちが強かったです」
そのうえで「ねが」さんは、利用客に対してこう願った。
「ウイルスに対して少しでも効果があるものが欲しい!という気持ちは重々承知しておりますが、落ち着いて行動してほしいということと、満足のいく回答が店舗側から得られなくても罵声を浴びせないでほしいと思いました」
「マスクの品薄のようなことが起こる状況ではない」
なお4日の会見中、すでにうがい薬の買い占めが起きているとネットで報告されていることを報道陣が指摘。吉村知事は「製薬会社には、ある程度在庫はあるだろうという情報は得ている。できるだけ、薬局で品切れになれば供給してくださいと言っている」とし、経済産業省と協議して生産ライン増強の下準備もしていると述べた。
この日の会見に出席した松井市長も「古くからあるうがい薬なので、増強ラインができれば量産できる。増強ラインを作るのにそんなに時間はかからないと確認している。皆さんが無理な買い占めをしない限りは、このうがい薬がなくなることはあり得ない」「このうがい薬は国内製造ができている。マスクの品薄のようなことが起こる状況ではない」として、冷静な消費行動を呼びかけた。
また、吉村知事は翌5日の会見で、ポビドンヨードうがい薬は新型コロナウイルス感染症の「治療薬でも予防薬でもない」と説明。「唾液を介してコロナウイルスは広がっていく。陽性者やリスクが高い人がポビドンヨードうがい薬をつかうことで口の中のウイルスが減るから、感染拡大防止に寄与するのではないか。それで府民の皆さんに呼びかけた」と改めて前日の発表の趣旨を述べた。そのうえで、「必要な方に行き渡るよう買い占めなどは控えてください。現在メーカーに順次出荷をお願いしている」と呼びかけた。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)
誤解なきよう申し上げると、うがい薬でコロナ予防効果が認められるものではありません。重症化を防ぐ効果の検証はこれからです。判明したのは、唾液中のコロナウイルスを減少させ、唾液PCRの陰性化を加速させること。唾液PCR検査は毎朝うがい前。感染拡大防止への挑戦。 https://t.co/uqOZInb4ht
— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) August 4, 2020