中国公船による沖縄県・尖閣諸島沖の接続水域への侵入が常態化するなか、中国の休漁期間が明けるのにともなって、多数の漁船が尖閣沖に押し寄せるリスクも高まってきた。政府は「具体的な対応についてはお答えを差し控えたい」とする一方で、自民党の議員グループは、尖閣諸島周辺の実効支配を強化するための調査活動を促す議員立法に向けた動きを加速させる。
日本政府・与党の動きを、現時点では中国メディアは事実関係を淡々と伝えているが、記事の最後には、「日本政府は、中国の沿岸警備隊が釣魚島のパトロールを常態化させていることについて、効果的な対策をまだ見付けられていない」とする、1か月半も前の日本側の報道を引用。日本側が対応に苦慮していることを印象づける狙いもありそうだ。
尖閣周辺海域を調査して実効支配を強化
中国公船による接続水域の侵入は2020年7月22日で100日連続となり、8月3日時点で、12年9月の尖閣諸島国有化以降、最長記録を更新し続けている。日本政府は7月22日に中国側に抗議ししたが、中国外務省の汪文斌副報道局長は同日の会見で「(尖閣諸島は)中国固有の領土だ」「日本政府の抗議は受けない」などと繰り返した。
そんな中で、稲田朋美幹事長代行や山田宏元防衛政務官らによる自民党の議員グループが7月29日に初会合を開き、尖閣周辺海域の調査を政府に促す議員立法を早期に国会に提出することを決めた。この動きはNHKも8月3日に報じ、山田氏はNHKのウェブサイトの記事を引用しながら、その意義を
「尖閣諸島周辺の原油、天然ガス、希少金属などの鉱物資源の調査は一度も行われていない。また戦前戦後を通じて何度も自然海洋調査が行われてきたが、1979年以降40年間放ったらかしも異常」
とツイートした。
菅義偉官房長官「具体的な対応についてはお答えを差し控えたい」
ただ、近いうちに事態がエスカレートする可能性もある。中国側が尖閣諸島周辺で設定する休漁期間が8月16日に終わるため、多くの漁船が尖閣周辺の接続水域を航行したり、領海に侵入したりする可能性があるからだ。この状況をめぐって、産経新聞が8月2日に、
「(中国政府が日本政府に対して)多数の漁船による領海侵入を予告するような主張とともに、日本側に航行制止を『要求する資格はない』と伝えてきていた」
と報じたこともあって、日本の世論でも警戒感が高まっていた。
ただ、菅義偉官房長官は8月3日の記者会見で、多数の漁船が押し寄せるリスクについて、
「政府としては、現下の安全保障環境において、様々な事態に適切に対処することができるよう、必要な体制を構築しているが、具体的な対応についてはお答えを差し控えたい。いずれにせよ、引き続き関連動向を注視するとともに、関係省庁が緊密に連携して、情勢に応じて対応に万全を期していきたい」
と述べるにとどめた。
NHK報道になかった背景の解説も
8月3日夕方の時点では、漁船が押し寄せる問題について中国側は特段の反応は見せていない。中国共産党の環球時報がNHKの報道を引用する形で、自民党議員グループの動きを伝えている程度だ。ただ、記事の後半では、
「日本の防衛省によると、中国の巡視船は明らかに大型化している」
という、NHKの報道にはなかった背景の解説も加わっており、最後の1文は
「日本の共同通信社は6月21日、日本政府は、中国の沿岸警備隊が釣魚島のパトロールを常態化させていることについて、効果的な対策をまだ見付けられていないと報じた」
となっている。
共同通信が6月21日付け朝刊向けに配信した特集記事では、リード文の中に、
「日本政府は『侵入の常態化』(防衛省筋)に警戒を強めるものの、抑止の有効策は見当たらない」
という1文がある。環球時報が報じたのはこの部分だとみられるが、1か月半前の記事を引用してまで「侵入の常態化」への抑止が難しいことを印象づける狙いもありそうだ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)