岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
ポートランドの日系人青年が、大統領に「感謝」する理由

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「今の民主党を支持したいとは、思えなくなってきたんだ」

   日系人のヒロキは、トランプ大統領が「連邦政府が介入しなければ、今頃、ポートランドはなくなっていた。街は焼き尽くされ、めちゃめちゃに壊されていただろう」とツイートしたことに触れ、「街全体に被害が及んでいるかのようにツイートしたのは、事実ではない」と話した。

「でも抗議デモが始まった当初、街のもっと広い範囲で略奪や暴動が起きた夜は、本当に恐ろしかった。そしてそのあとも、暴力や破壊行為は続いていた。ポートランドではこれまでも何度もいろいろな抗議運動が起き、アンティファは年々、過激になっている。彼らが望んでいるのは、この国を社会主義国家にすることだ。地元政府は手をこまねいて見ているだけで、僕はだんだんイライラしてきた。正直、今回、連邦政府が介入してくるとは、まったく想像もしていなかった。でもそうしてくれたことに、感謝している」

   今回のトランプ氏の動きは、11月の大統領選を目前に「法と秩序」を前面に押し出す戦略であり、法執行機関を政治利用していると、批判されている。

   これに対して、ヒロキは言う。

「それはその通りだ。僕はジョー・バイデンを支持していたんだ。でもコロナ騒動があってからは、もうわからなくなった。今回の暴動は、コロナで経済的にも精神的にも社会不安が大きくなっていることも、影響していると思う。トランプはナルシストで人種差別主義者だ。でも、だからといって、今の民主党を支持したいとは、思えなくなってきたんだ」

   2020年7月25、26日の週末、トランプ大統領が治安対策のために全米主要都市に派遣する連邦職員を増やすと発表したことに抗議するデモが行われ、警察との衝突に発展。テキサス州では死者も出ている。

   7月28日、下院司法委員会公聴会でウィリアム・バー司法長官は、「暴徒と無政府主義者が平和的なデモを乗っ取り、罪のない人たちに無差別な騒ぎと破壊行為を繰り返している」と訴えた。また、ジム・ジョーダン下院議員(共和党)は、暴動の様子や、オバマ前大統領やバイデン氏が口を揃えて「平和的な抗議デモ」とコメントしている動画を流した。

   この動画に対してCNNは、「暴力が平和的だとは言っていない」と反論している。

   トランプ政権は30日、ポートランドの地元警察が連邦政府庁舎を守ることを条件に、一部の連邦部隊を撤退させると発表した。

   連邦部隊に代わって地元当局が取り締まることになり、31日の抗議デモはおおむね平和的に行われた。日系人のヒロキも「今のところ、いい方向に動いているようだ」と、この動きを歓迎していた。

   しかし真夜中を過ぎると、「Black Lives Matter(黒人の命を軽んじるな)」と書かれたプラカードを手にした一部のデモ参加者らが、連邦政府の建物の前で炎の中に星条旗や聖書を投げ入れ焼いた、と「ニューヨークポスト」が報道した。この動画を2百万人近くが視聴し、ネットでも拡散されている。

   ヒロキ自身、以前はかなりリベラルで、抗議デモにも参加してきた。今回のジョージ・フロイド氏の残虐死に対する抗議デモも、支持しているという。

「ただ、参加者の多くは警察予算の半分削減を訴え、一部は警察廃止を叫んでいて、それには賛成できない。警察組織に存在する人種差別は、撤廃しなければならない。そのためには、警官の行為を内外からつねに監視するシステムを作り、現職の警官を一旦全員解雇して、雇い直すことも必要かもしれない。警察の予算の一部を、福祉などのサービスに回すべきだろう。住民と警官との間の信頼を築くことが不可欠だ」

   ヒロキの話を聞いていると、平和に抗議デモに参加している人たちの声と、それほど違うとは、私には思えなかった。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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