ライブ有料配信にアクセスできない! そんなトラブルに業界はどう向き合う?

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   新型コロナウイルスの影響で音楽業界が苦境に立たされる中、「音楽ライブの有料配信」が脚光を浴びている。2020年6月25日に行われた「サザンオールスターズ」の無観客ライブ配信は約18万人がチケットを購入するなど、大きな注目が集まった。

   ただ、発展途上の有料ライブ配信市場では、何らかのトラブルによって「ライブが見られないかもしれない」という課題も浮き彫りになっている。このリスクに、どう向き合っていくべきなのか。有識者や業界関係者に話を聞いた。

  • 有料ライブ「見られないかも」問題、どう向き合う?(画像はイメージ)
    有料ライブ「見られないかも」問題、どう向き合う?(画像はイメージ)
  • ZAIKO株式会社のローレン・ローズ・コーカーCOOとデジタルメディアマーケティング主任の大野晃裕氏(左から)
    ZAIKO株式会社のローレン・ローズ・コーカーCOOとデジタルメディアマーケティング主任の大野晃裕氏(左から)
  • 音楽ジャーナリストの柴那典さん
    音楽ジャーナリストの柴那典さん
  • 有料ライブ「見られないかも」問題、どう向き合う?(画像はイメージ)
  • ZAIKO株式会社のローレン・ローズ・コーカーCOOとデジタルメディアマーケティング主任の大野晃裕氏(左から)
  • 音楽ジャーナリストの柴那典さん

無料配信は「サステナブルなやり方ではなかった」

「ここ10年、音楽業界はライブエンターテインメントの勢いに頼ってきた。それだけに、コロナ禍による打撃はとても大きい」

   音楽ジャーナリストの柴那典さんは20年7月17日、J-CASTニュースのオンライン取材に対し、音楽業界の現状についてこう語った。

   2月、大阪府のライブハウスを訪れていた観客の新型コロナウイルス感染が相次ぎ、世間のライブエンターテインメントへの風当たりが強まった。2月26日には大規模イベントの自粛要請が出され、直近に予定されていた音楽ライブやフェスでは中止、もしくは延期という措置が取られた。

   2月末〜3月はじめにかけて行われたのが、ライブが中止になったアーティストによるライブ映像の配信だった。「打首獄門同好会」「ナンバーガール」といった人気グループが観客のいないライブ会場からパフォーマンスを披露し、視聴者はそれを無料で見ることができた。

   こうした無料ライブの配信について、柴さんは「ファンにとっては嬉しいことだった」と振り返る。ただ、「主催者は会場を借りていて、搬入、ステージの準備もしている。お客さんは入れられないが、ある程度経費はかかっている。しかもそれを無料でやる。まったくもってサステナブル(持続可能)なやり方ではなかった」と収益面には課題があったことを指摘した。

転機となった「cero」と「サザン」

   ライブ会場に客を呼べない状況で、業界はどうやってマネタイズをしていくのか。出された答えの一つが、3月13日にロックバンド「cero(セロ)」が行った無観客ライブの有料配信だった。ceroはこの日、宮城県仙台市でライブを予定していたが、公演が延期に。その代わりに、チケット代1000円を徴収して無観客のライブ映像を配信する試みを実施した。このライブが音楽ファンの間で注目を集めたのだ。

   柴さんはceroのライブについて、

「会場にお客さんを入れずにライブをやり、チケットを売り、生配信で見せることによってエンターテインメントを成立させた。当時『お金を取ってライブ配信をやる』という常識が形成されていなかった中で、『ライブにお金をとっていいんだ』とポジティブな反響があった」

   と分析する。

   ceroを起点に始まった「ライブの有料配信」という手法は、緊急事態宣言解除後の6月以降に日の目を見ることになった。中でも大きな注目を浴びたのが、6月25日に横浜アリーナで行われたサザンオールスターズの無観客ライブだ。8つのプラットフォームを通じて配信されたライブでは、約18万人が3600円のチケットを購入、推定視聴者数は約50万人と報じられた。サザンが与えた影響について、柴さんはこう語る。

「大衆レベルでは、配信ライブにチケットを買って参加するという行為が定着していなかった。その中で、サザンのライブは『新しいライブの形なんだ』という一つのシンボルを示した」

ZAIKOのCOO「ラッキーだった」

   有料ライブ配信の普及で、新たな市場を開拓した企業もある。

「4ヶ月前までは小さな『チケット・スタートアップ』としてやってきて、あまり注目されていなかった」

   有料ライブ配信における主要プラットフォームの一つ「ZAIKO」を手がけるZAIKO株式会社のローレン・ローズ・コーカーCOO(最高執行責任者)は7月20日、J-CASTニュースの取材にこう答えた。 リアルイベントの電子チケット販売プラットフォームを手がけていたZAIKOは、コロナ禍によるイベントの相次ぐ中止を受け、今年3月から「ライブ配信」でも電子チケットを販売できるオプションを追加した。アーティストが「YouTube」や「Vimeo」といった動画配信サービスでライブを配信する際に、主催者側が有料のチケットを売ることができる仕組みだった。

   この仕組みでチケットを販売したのが、先述の「cero」だった。ライブは業界関係者の高い評価を集め、ZAIKOの仕組みを通じて「有料の無観客ライブをやりたい」という問い合わせが相次いだ。チケット代とは別に、視聴者が追加料金を支払える「投げ銭」機能も、コロナ禍におけるアーティスト支援の新たな形として注目を浴びた。

   ceroのライブ以降、大きな反響があったことについて、ローレンCOOは「バンドがクリエイティブで素晴らしいものを作り上げた。(そういう意味で)ZAIKOはラッキーだった」と振り返る。ZAIKOのデジタルメディアマーケティング主任を務める大野晃裕氏も、ceroのライブの成功が「他のイベンターさん、アーティストさんの背中を押したのでは」と分析した。

相次ぐトラブルに一部で批判も

   ローレンCOOによれば、ZAIKOを通じたライブの本数は「3月に20本だったのが、4月に100本以上、6月には1000本以上、7月を含めると1500本を超える」という。知名度も増し、落語や芝居など音楽以外の配信も行われるようになった。6月には独自の配信サービス「ZAIKO LIVE」をリリースし、主催者のニーズに応える形でサービスを拡充してきた。

   しかし、そんな最中の6月13日、ZAIKOのサイトとライブの配信視聴ページにアクセスできない接続障害が一時的に発生した。これにより、同日のイベントが予定通り配信されない事態に見舞われた。約1ヶ月後の7月12日には、星野源さんのライブ配信中、一部ユーザーがZAIKOのサイトにログインしづらい状態が生じた。

   星野さんのライブでは主催者側との協議の結果、チケット購入者がライブ映像をアーカイブ視聴できる期間を延長するという措置が取られた。だが、立て続けに起こった配信トラブルに対しては、ツイッター上の音楽関係者や音楽ファンの一部から不満、批判の声が聞かれた。

   ZAIKOはニュースリリースを通じ、それぞれの障害の原因について発表している。リリースによると、6月のトラブルはプログラムのバグ、7月のトラブルは急激な購入アクセスの増加によるものだった。いずれも対策として「サーバー強化による安定的なネットワークの構築」「セキュリティの強化、それに伴うエンジニアのリソース拡充」を行い、こうした事象が「二度と発生しないよう努めてまいる所存です」とした。

ライブとは本来「時間を共有する」ということ

   ライブの主催者からすれば、こうしたトラブルの発生によって、配信に向けて準備してきたものが水泡に帰す可能性もある。音楽ジャーナリストの柴さんは「配信ライブを有料で行う、ということが浸透していく過渡期であるがゆえの問題」だとしつつ、主催者側が配信に複数のプラットフォームを使う「リスクヘッジ」をすることも重要だと指摘する。

   具体的には8つのプラットフォームを用い、大きなトラブルが見られなかったサザンオールスターズのライブを引き合いに出し、「何万人、何十万人と集まるようなことが予想されるアーティストであればあるほど、プラットフォームは分散化したほうがいい」と語る。

   視聴者は、こういったリスクにどう向き合っていくべきだろうか。柴さんは、

「アーティストがどれだけいいパフォーマンスをしても、その映像がブチブチと途切れてしまったら、当然視聴に耐えられるものではなくなる。ライブとは本来『時間を共有する』ということ。アーカイブを見れたからといってそれでOKというわけではない」

   と厳しい言葉を投げかける。その上で、より良い配信環境を作るためにも、プラットフォームにはトラブルの再発防止を要求していくことが重要だと指摘する。

映像見られないリスク、視聴者側にも

   一方、プラットフォームの問題以外にも、何らかの要因で映像が満足に見られないリスクはつきまとう。具体的には、通信環境や端末、OSなど視聴者側の環境の問題だ。柴さんは「配信ライブで不具合が起きても『ひょっとしたら見られないのはウチだけかもしれない』、あるいは『ウチは見られていたよ』ということもありうる」とし、映像が見られない原因がプラットフォーム側にあるのか、視聴者側にあるのか、一見しただけでは分かりづらい面があると指摘する。

   ZAIKOの大野氏は「実際にサイトのサーバーが落ちたのは1回だけだが、技術的なトラブルの対策は常に万全にしておかなければならない」と語る。一方で、視聴者側に問題があるとみられる場合でも、プラットフォーム側に苦情が寄せられるケースには、ローレンCOOも頭を悩ませているという。

「配信を有料にすることで、どこまでリスクを持てるかというのは、業界の話題になっている。他の配信業者さんも同じことを考えていると思う。『ウチのせいじゃないのに』とか。今は配信しかない時代だから、みんなピリピリになっている」

   大野氏も「音楽ファンの方達も、ライブ配信に触れるのはこれが初めて。(映像が見られない)原因がどこにあるのかが分からない中で、ツイッターなどで『うまく見られなかった』と呟かれるケースもある」と語る。その上で、ライブ配信のトラブルには多くの要因があることについて、「業界全体でエンドユーザーの方に知ってもらう努力をしていく必要がある」と語った。

「ブランドイメージの改善を図っていく」

   ZAIKO以外にも、大手・中小を問わず多くの業者がライブ配信市場に参入している。柴さんは「いろんなプラットフォームが使われるようになる中で、問題が生じてしまうプラットフォームは淘汰される」と語る。

   裏を返せば、安定した配信環境を構築し、競合他社にはない「強み」を打ち出せたプラットフォームは、市場の中で信頼を獲得していくことにもなる。今回取材したZAIKOは今後、どのように動いていくつもりなのか。

「過去の反省を生かして、技術的な部分では常に万全の状態においています。ここからは、コロナ禍または収束後であってもZAIKOを使うことで世界中のファンに直接チケットを販売できたり、主催者のニーズに合わせた自由度の高いチケッティング機能など、ZAIKOの強みや価値を理解してもらえるよう努めていきたい」(大野氏)
「ZAIKOでは自分のウェブショップを作るように、自分のプラットフォームを作れる。これは他社にはない強み。ZAIKOがどういう会社か、どういう意義で事業をやっているかという点はこれまでBtoC(一般消費者)向けに説明してこなかったが、これからお伝えしていかないといけないと感じている」(ローレンCOO)

(J-CASTニュース編集部 佐藤庄之介)

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