伊藤忠商事が、子会社であるコンビニ大手、ファミリーマートの株式の公開買い付け(TOB)を実施している。
全株式を約5800億円で取得し、ファミマを上場廃止にし、経営の意思決定を迅速化するのが狙いだ。コンビニの成長モデルが揺らいでいる中、顧客情報を生かし、実店舗とネットなどデジタルを融合させた消費ビジネスを両社一体で進める考えだ。
「巣ごもり」の影響、特に強く
TOBの背景にはコンビニ業界が置かれている厳しい現状がある。大量出店で成長し続けてきたが、「飽和状態」と指摘されるように2019年末の全国の店舗数は5万5620店と前年末から100店余り減り、初めてマイナスになった。他店やドラッグストアなどとの競合が激化し、成長力に陰りが見えている。人手不足、店主の労働環境の悪化で24時間営業も曲がり角に来ており、食品ロス問題が批判を浴びるなどの逆風も強まっている。
特に新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり」でコンビニは売り上げを落とした。大手3チェーンの売り上げは、トップのセブン-イレブンが4月は対前年同月比5.0%減、5月が同5.6%減、2位のファミマはそれぞれ14.8%減、11.0%減、3位のローソンも11.5%減、10.2%減。ファミマは特に都心部での出店を進めていたことも災いし、在宅勤務で大きく落ち込んだ。
そもそも1日当たりの全店舗平均売上高(平均日販)は、2020年2月期でセブンの65.6万円がダントツ、ローソンが53.5万円で続き、ファミマは52.8万円とローソンにも後れを取っている。2016年9月にサークルKサンクスを吸収合併して、規模では業界2位に躍進したが、成長性や収益性の向上に関しては目立った成果が上がっていなかった。
こうした事情を受け、伊藤忠として抜本的なてこ入れの腹を固めたのが、今回のTOBだ。
アマゾンの存在感を意識
伊藤忠は1998年、西武セゾングループの危機を受けて西友からファミマ株の30%を1300億円で取得して筆頭株主となり、2018年には出資比率を引き上げ、グループで50.1%保有し連結子会社とした。完全子会社化は2019年秋から協議が始まったというから、コロナ以前の「コンビニ頭打ち」への対応策として浮上した話だ。
完全子会社化を受けて、具体的にはファミマの一部の店舗でAI(人工知能)を使った省力化の実験を進めることや、取得する株式の一部4.9%分を全国農業協同組合連合会(JA全農)と農林中央金庫(農林中金)に約570億円で譲渡して資本・業務提携するなどと報じられているが、伊藤忠の狙いの本丸は顧客データとデジタル戦略だ。
伊藤忠が意識するのは世界最大の通販サイトを運営する米アマゾン・ドット・コム。米国で無人コンビニ「アマゾン・ゴー」を出店、さらに高級スーパー「ホールフーズ」を買収するなど、実店舗とネット通販の融合で先行している。伊藤忠がアマゾンに対抗するには、約1万6500の店舗、1日当たり約1500万人の来店客を基盤に年間約3兆円を売り上げるファミマの持つ顧客情報と販売力を、新商品・サービスの開発に最大限生かそうということだ。連結子会社とはいえ、独立した上場会社のままでは、迅速な情報共有と意思決定ができないと判断した。
残る不透明な要素は?
ただ、TOBには不透明な要素もある。TOBにはファミマも「賛成」を表明し、価格は1株2300円と、TOBを発表した7月8日の前日終値1766円に3割のプレミアムを乗せている。9日に始まり、8月24日が期限だ。この価格に投資家の不満の声が絶えない。ファミマ株は1月に2753円まで上昇したが、その後のコロナ禍で3月19日に1423円まで下げ、その後、市場全体の回復に合わせて反転していたが、コロナによる下落でTOB価格が抑えられたのは間違いない。伊藤忠・ファミマの協議で、ファミマ側が依頼した第三者の算定した価格は2500円程度だったとされる。一方の伊藤忠はコロナの影響が長期化するとの見方から2200円を主張し、協議の末に2300円に決まったという。
このため、ファミマとして、TOBに賛成はしても、「応募を積極的に推奨できる水準の価格に達しているとまでは認められない」と、応募は株主の判断に委ねると表明したのも異例だ。TOB発表後、株価は一気に上がり、7月16日には一時2473円まで上昇するなど、10日以降、2300円を上回り続けている。「TOB価格は安すぎる」という市場の意思表示だ。
TOB成立の下限は9.9%の取得(すでに保有している50.1%と合わせて60%になる)。ETF(株価指数連動投資信託)などを除く実質的な浮動株を20%程度とみて、その半分という計算だという。
企業価値を守り、向上させるためのTOBなのだから、TOBが成立しなければ、ファミマの企業価値は落ちる(株価が下がる)かもしれないし、TOBをしないとしても今の株価は過小評価かもしれない。そのあたりをどう見込み、8月24日の期限まで、株主が、また市場の投資家がどのように判断し、株価がどう動くか、目が離せない。