外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(15)日米地位協定の死角 在沖米軍に見る感染拡大の実態

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 日米の課題は「身柄引き渡し」「航空法」からコロナへ

   基地と生活圏が隣接する沖縄では、戦後一貫して、米軍による公務中、あるいは公務外の犯罪や事故が起きてきた。それを、本土と同じ日米地位協定で律することには、もともと無理があった。典型例は、日本側が裁判権を行使すべき犯罪において、身柄が米国の手中にあるときは、日本側が控訴するまで引き続き米側が身柄を拘禁するという規定だ。

   これまで沖縄では、性犯罪を犯した容疑者が基地から米国に逃亡した例もあり、「治外法権」に近いこの規定が長く問題にされてきた。しかし、1995年の少女暴行事件においても「運用改善」にとどまり、その後、日米合同委員会で日本側が拘禁の移転について要請すれば、米側が「これを十分考慮する」という条件にとどまっている。明田川さんによれば、今回のコロナ禍が始まる前まで、沖縄が強く求めていたのは日本の航空法の適用だったという。

   「2004年8月13日に起きた沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故だけでなく、沖縄では航空機やヘリの事故が頻発している。その後に配備されたオスプレイが2016年に不時着(琉球新報はその後、「墜落」と表記)する事故があったし、2017年の普天間第二小学校や昨年の浦西中学校へのヘリ部品落下事故なども起きている、航空法を適用すれば、もう少し安全を確保できるのではないか。それが沖縄県にとっては喫緊の課題でした。しかし、今はコロナ禍が、それと同じほど重要な課題になっている」

   今の状況について明田川さんは、「日本は米国人に対し、正門からの入国を拒否していながら、『基地』という通用門から出入り自由の状態にしている」と話す。米軍に対しては、出入国管理法令も、検疫法も適用されない。

   「航空法と検疫法は、明らかに性格が違う。しかし、国権の最高機関である国会が作った法律が、第三者である他国の軍隊に及ばないという点では、構図は同じ。米側に有利な日米地位協定の性格を反映している。これほど外国の軍隊に自由を認める協定は、ほかには例がないと思う」

   沖縄県基地対策課はここ数年、欧州など米国が軍を派遣する他の国での地位協定を調べ、日本との比較を続けてきた。その報告書は、今も同課のサイトの「地位協定ポータルサイト」で読むことができる。明田川さんは、「欧州編」にコメントを書き、おおむね次のように指摘した。

   「沖縄県が2017年度に行った『他国地位協定調査』から得られた大きな成果の一つは、独伊両国による米軍基地への立ち入り権が改めて確認されたことだ。すでにドイツの連邦・州・地方自治体の当局は『ドイツの利益を保護するため』に事前通告後に基地へ立ち入るだけでなく、緊急時などには『事前通告なし』で立ち入ることが知られていた。さらに報道各社の取材班は、立入り許可証を発行された基地所在地の首長や職員が、公務遂行のため事前通告なく『常に立入りを認められている』ことを明らかにしていた」

   「在伊基地は原則としてイタリア人司令官の統括権下に置かれることが知られていた。これに関して沖縄県は、元NATO空軍司令官や元首相経験者から、『アメリカが活動しようとするときは、必ずイタリア軍の司令官に伺いを立てなければならない』、あるいは『米軍はすべての活動についてイタリア軍司令官の許可が必要だ』との証言を得た。このように、受け入れ国側に強い基地管理権があることから、イタリアの司令官は『その責任に対応するため』に、また『イタリア国主権の擁護者として』、基地のすべての区域および施設へ自由に立ち入ることができるとされる」

   つまり、基地管理権は原則的に受け入れ国側にあり、立ち入りも認められている。日本にはこうした管理権はなく、自治体の立ち入りも認められていない。NATOという多国間協定に基づく駐留と、日米安保条約という2国間条約に基づく駐留という違いはあるが、米軍による基地の排他的権利を認める日本の場合は、極めて特異と言えるだろう。さらに、特定の法令の運用を日米で合意する以外は、「わが国の法令の適用はない」とする日本の姿勢は、「治外法権」を認めるにも等しい。つまり基地は日本の法令の除外対象となり、問題が起きれば日本は「要請」をし、米側が「配慮」する、という「運用」の問題になってしまう。それが、今回のコロナ禍で問題になった「すみやかな情報の共有」の根源にある問題だ、と明田川さんは指摘する。

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