東京の真ん中、千代田区の議会が混乱の極みに陥っている。高級マンションを「優先購入」したとされる疑惑をめぐり、石川雅己区長(79)が虚偽の証言をしたとして議会が刑事告発を議決すると、区長は逆に「議会を解散する」と一方的に通告。新型コロナ対策で全区民に一律12万円を給付する計画案を審議する委員会も、区長が「議会は存在しない」として欠席した。給付計画自体に暗雲が立ち込めている。
2020年7月29日午前に開かれた区議会の予算特別委員会。石川区長が27日に上程した、独自に12万円を区民全員に給付する事業を盛り込んだ補正予算案を審議するための委員会だが、当の区長が現れず、審議ができない状態に。区議らは出席を求めたが、区長は「議会はもう存在しない」と主張し、結局散会となった。
「自分が出した補正予算案なのに」審議に姿現さず
「自分が出した補正予算案なのに。12万円の給付案が、区長の疑惑隠しのためだったことが、改めてわかりました。あきれましたよ」
区議の1人はそう吐き捨てるように言った。
多くの区民が期待する、新型コロナ対策のための「肝いり」の計画なのに、なぜ石川区長は出てこなかったのか。ここに至るまでの経緯を簡単に振り返る。
区長は区内にある高級マンションの1室(1億円超)を次男らと共同で所有するが、部屋が一般には販売されず地権者や得意客に提供される「事業協力者住戸」だったことが判明。区長らは地権者ではなく、マンションは建設時に区の許可を受けて高さ制限が緩和されたことから、区議会で「規制緩和の見返りに便宜供与を受けたのではないか」と追及されている。
区長は6月、地方自治法100条に基づく調査権限を持つ区議会の委員会(百条委員会)で証人尋問に応じたが、この際に虚偽の証言をしたなどとして、区議らが区長の刑事告発を求める議案を提出。7月27日に賛成多数で可決された。
区長はこれに反発。翌28日、刑事告発の議決は「実質的な不信任の議決と認められる」と主張し、区議会の解散通知を提出したのだ。
「解散通告」の正当性は? それぞれの見解
それにしても、なぜ唐突に解散通知を出したのか。石川区長は28日に開いた記者会見で、解散通知を出した理由について、12万円の給付案が議会で「疑惑隠し」と指摘されたことに触れた上で、こう主張した。
「私たちと区議会とが、建設的、正常な議論ができない。有権者に(選挙を通じて)しっかりと客観的に判断をしていただきたいという思いで、解散を区議会議長に通告しました」
そして、仮に刑事告発が検察に受理され、捜査の上で起訴に至れば失職事由になることもあるとして、「区長としてふさわしくないと区議会が(実質的な不信任を)突きつけたと思っています」と主張した。
一方、通知を受け取った区議会の小林孝也議長は激しく反発した。
「解散通知書は何ら法的効力もありません。コロナウイルス陽性者が増加する中、石川区長の、区政を混乱に陥れる暴挙を到底許すことはできません」
石川区長の解散通知に正当性はあるのか。地方自治法を所管する総務省自治行政局の担当者は一般論と断った上でこう解説する。
「地方自治法178条で『不信任が議決された時に首長は議会を解散できる』と定めていますが、議決が不信任と認められるかどうかは議会において判断されるものです。また不信任である旨を議長から区長に通知するなど、正規の手続きを踏む必要もあります」
小林議長は、27日の議決はあくまで刑事告発についてであって、「不信任の議決ではない」と説明している。不信任を議長から区長にも通知していないという。区長の「不信任を受けた」とする主張は、どうやら独自の解釈のようだ。
この騒動、千代田区民はどう見るか。29日正午過ぎ、東京・九段下の区役所近くで犬の散歩をしていた自営業の男性(63)は憤る。
「コロナで困ってる人が区内にもたくさんいるのに、区民そっちのけで政争している場合じゃないでしょう」