コミケ運営・赤ブー・コミVに聞く コロナ禍で浮き彫り、同人誌即売会の「役割」と「これから」

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   同人文化のファンたちは、新しい同人誌即売会の様式を考えていかなければならない――。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、多くの同人誌即売会が開催の中止、延期もしくは規模の縮小を迫られた。同人誌即売会がなくなることで同人誌印刷所の経営が厳しくなり、もし同人誌印刷所が大幅に減少すれば、これまでのような同人誌即売会、そして同人文化そのものが窮地に陥る(「『同人誌印刷所』の窮地は、日本の『同人文化』の危機だ 業界組合・イベント主催が語る『生態系』」、2020年7月28日配信)。

   そんな中で、「エアイベント」といったオンラインイベントや、バーチャル空間での同人誌即売会を試みる動きも広まっている。

   J-CASTニュースは、世界最大級の同人誌即売会コミックマーケット準備会(以下コミケ準備会)、赤ブーブー通信社、バーチャル空間での同人誌即売会を実施するHIKKY(東京都渋谷区)に、今後の見通しなどについてメールで取材した。

  • 大型同人即売会の開催地に多数用いられる東京ビッグサイト
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  • 公式サイトより 延期されたイベントの数々
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  • 公式サイトより 延期されたイベントの数々

同人誌即売会が迎えた苦境

   赤ブーブー通信社は、国内最大級の同人誌即売会「SUPER COMIC CITY(スパコミ)」などの運営を行っている。その、赤ブーブー通信社の赤桐弦副代表は、同人誌即売会の主催者たちの苦境をこう明かす。

「現状ミニマムに抑えてはいますが、それでも事務所維持と日常の受付や問い合わせ処理、データ管理、会場その他関係各所との調整、機材保管、そのための人、その育成等に多くのリソースを割かざるをえません。ざっくりと言えば開催当日が占める割合は全体の3割にも満たないため、急激な縮小や開催中止・延期が多発となればひとたまりもありません」

   赤ブーブー通信社はの主催するイベントの多くは延期を余儀なくされた。収入源となるイベントの中止は大きな痛手となる。

公式サイトより 延期されたイベントの数々
公式サイトより 延期されたイベントの数々

   これは赤ブーブー通信社に限った話ではない。J-CASTニュース既報の通り、オリジナル作品の売買を行うことができる日本最大級のイベントであるCOMITIAも存続の危機だと表明している(「コミティア実行委員会に聞く 日本最大級『創作オンリー』継続にかける思い」、7月6日配信)。

   苦境を語る赤桐副代表は、それでも申し込んでくれるサークルへ感謝と謝罪を伝えたいという。

「金融機関からの借入や政府からの給付金等を活用しつつも、日々サークルさんからの申込も届いており、ここは本当に本当に感謝するところです。また、延期振替にともないご迷惑をかけてしまった参加者の皆さんには本当に申し訳なく思います」

   さて、J-CASTニュース既報の通り、個人が趣味で製作する冊子「同人誌」の印刷所は未曽有の苦境に置かれている(「『同人誌印刷所』の窮地は、日本の『同人文化』の危機だ 業界組合・イベント主催が語る『生態系』」、2020年7月28日配信)。コミケ準備会が「コミックマーケットの根幹を担っているのは、紙の同人誌であることに変わりはありません」と言うように、現在の同人文化において、紙の同人誌の存在と同人誌即売会の関係は切っても切れないものである。

   しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でしばらくの間、従来のような大規模なイベントを行うことが厳しくなった。同人誌即売会開催規模そのものと同人誌印刷会社の売上は正比例するため、この状況が続けば、同人誌の印刷インフラが弱体化していく恐れがある。

   こうした状況下で、従来の同人誌即売会の主催らは「エアコミケ」、「エアブー」といったオンラインイベントを開催。

   さらに、バーチャル空間でも同人誌即売会が開催された。J-CASTニュースは、2020年4月10日からの3日間、VR空間上の同人誌展示即売会「ComicVket 0」を主催したHIKKYに取材を行った。

バーチャル同人誌即売会のメリットとデメリット

   「ComicVket 0」はオリジナル作品の売買を行うことができるバーチャルイベントである(「バーチャル同人誌即売会に約2万5千人 ComicVket 0、来場者は想定の『2倍以上』に」、4月14日配信)。約71万人を動員する世界最大級のバーチャルイベント「バーチャルマーケット」を開催するHIKKYが、その運営ノウハウを生かして実施したバーチャル同人誌即売会だ。

   バーチャル同人誌即売会のメリットとデメリットを尋ねると、HIKKYはこう回答した。

「バーチャル同人誌即売会の最大のメリットは、本来であれば出展や参加を断念していたような遠方住みの方でもイベントに参加できることです。デメリットとしては、VR機器や回線の影響を大きく受ける為、画質や操作の快適さに個人差が出る点です。今後の課題としては、同人誌の委託書店などと連携し、スムーズにユーザーの手元にお届けできるようにしたいと考えています」

   しかし、こうしたオンラインイベントが広がっていってもまだ、同人誌印刷インフラの危機を脱することはできなかった。HIKKYによれば、紙の同人誌の取り扱いについては数字が出すことができないというが(ComicVket 0では、VR会場からそれぞれの外部の販売サービスのURLにつなぐことで、手数料なども取らずに頒布者に自由に売ってもらっているため、HIKKYがその先を把握することはできない)、同人誌印刷所「栄光」の代表取締役社長で、日本同人誌印刷業組合の岡田一理事長は、オンラインイベントの影響についてこう語る。

「『オンラインでのイベント』で注文ゼロを避けることはできました。もちろんありがたいことですが、リアルイベントと比較すると残念ながら売上は30%~20%程度にとどまります。それでも、作り手のサークルの皆様に、オンラインイベントに向けモチベーションを 高める新刊発行意欲を持っていただく事がポイントです。新刊発行が、印刷会社を助け、同人誌書店を潤し、ひいては同人文化の継続につながることを理解していただくしかありません」

「ハレの場」である即売会との落差

   赤ブーブー通信社の赤桐副代表は、オンラインイベントでの紙の同人誌の売り上げは、全体を見ればもっと深刻だと推測している。

「30%-20%はだいぶ成功している印刷所さんではないでしょうか。私たちの認識としては、もう少し低い値、平均すれば通常イベントの5%-10%くらいと思っています」

   そして、オンラインイベントで紙の同人誌の発注が大幅に減る原因をこう推測する。

「これを言ってしまうと元も子もないのですが、現実問題としてどれだけ最新技術を投下してもエアイベントの物理的環境は『いつもの部屋』と『ディスプレイ』でしかないのです。小難しい話ではなく、シンプルに目の前の問題が非常に大きいです。特にこれまでハレの場である即売会を楽しんできた参加者にはその落差はとても大きく、その差が数字に表れているのではないでしょうか」

   コミケの準備会は、紙の同人誌の発注が大幅に減る原因や、参加者が本を作る動機やモチベーションについてこう語る。

「同人誌即売会は、ひとつには『締切』の機能を果たしてきました。もちろん計画立てて、同人誌や作品を作ることができる人もたくさんいますが、プロの作家でも、締切がないと原稿が描けない/書けない作家はたくさんいます。同人誌即売会に本を間に合わせるということは、サークル活動の大きな動機付けとなっていることは、皆さんなんとなくわかっていたとはいえ、図らずも今回の状況で見える化されたようにも思います。
 また、各種の検索機能を用いることで、ネット書店などでは、自分の好みに合った同人誌を探すことができますし、ピンポイントで欲しい同人誌さえ手に入れられればよい、という人も少なくはないのですが、一方で、まだ見ぬ同人誌との偶然の出会いの『場』であるということは、同人誌即売会の持つ強い魅力のひとつだと思います。リアルな『場』での同人誌との出会いは、ある意味『一期一会』的な色彩があり、それが同人誌を手に入れたいという強い動機とも連動していると思います」

今後の見通しは・・・

   こうした課題は抱えつつ、HIKKYも引き続き紙の本を含む様々な表現方法のサポートを検討しているという。

「まずは『作品発表の場を無くさないこと』が肝要だと思っています。一方でバーチャルイベントや電子書籍は便利ですが、紙の本でしか表現できないことはたくさんあり、今後も電子、紙、グッズなど、あらゆる表現方法が必要とされていくでしょう。ComicVket2は実施時期も含めて未定ですが、なるべく多くのクリエイターさんにご参加頂き、紙の本を含む様々な表現方法がサポートできる方法を継続的に検討していきます」

   2回目のバーチャル同人誌即売会「ComicVket1」は、8月13日から16日の4日間、開催予定だ。もちろん、紙の同人誌の通販も可能である。

   また、同人誌印刷所の苦境を受けた今後の見通しについて、コミケ準備会はJ-CASTニュースの取材にこう回答した。

「2020年冬につきましては、1975年12月のコミックマーケット誕生から45周年を迎えることを記念した企画なども加え、『エアコミケ』を発展させていくことを検討していますし、サークルの皆さんにはできるだけ同人誌を制作する形で参加していただけたらと思っています。詳細等定まり次第、公式Webサイト等にてご案内していきますので、よろしくお願いします」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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