東急の株価が2020年3月のコロナショックの後も低空飛行を続け、7月中旬以降は約6年ぶりの安値圏に沈んでいる。新型コロナウイルスが鉄道事業だけでなく、稼ぎ頭の不動産事業の低迷を招くのではないかとの懸念を多くの投資家が持っているためだ。他の私鉄各社より収益力はあるとの見方も根強いが、業界の中でも最近の株価下落が目立つ状況だ。
「東急」は2019年9月に「東京急行電鉄」から社名変更を遂げている。そのうえで同年10月に鉄道事業を分割し、100%子会社「東急電鉄」をぶらさげる事業持ち株会社となった。理由について東急は「各事業を取り巻く環境の変化へ一層のスピード感を持って対応するため」とやや抽象的な説明をしているが、稼ぎ頭の不動産事業を中核として経営していくことを社名や会社の形態でもはっきり示すことにしたようだ。
見通しにくいコロナの影響
東急の事業構造は、2020年3月期連結決算で事業別の営業利益をみると、交通事業(鉄道・バス)は270億円で不動産事業(290億円)を下回った。不動産事業には、この期にコロナの影響で14億円の営業損失となったホテル・リゾート事業は含まれない。残るは生活サービス事業で、これは東急百貨店などの小売りや映画興行などで、営業利益は134億円と、そこそこある。
ちなみに20年3月期は売上高にあたる営業収益が前期比0.6%増の1兆1642億円、営業利益は16.1%減の687億円、純利益は26.7%減の423億円だった。交通事業の売り上げは横ばいだったが、車両や鉄路にかかる経費がかさみ、営業利益は前期比23.2%減だった。これに対し、不動産事業は渋谷スクランブルスクエアや南町田グランベリーパーク(東京都町田市)の開業、さらに前期中に開業した渋谷ストリームの通年稼働もあり、営業利益は2.2%増と手堅さを見せた。
このうち第4四半期にあたる20年1~3月期連結決算は最終損益が36億円の赤字(前年同期は110億円の黒字)に沈んだ。コロナの影響でホテルや鉄道の利益が減ったことが響いた。21年3月期については、コロナの影響を見通しにくいため未定とした。
テレワーク拡大の影響は?
会社を支えているように見える不動産事業ではあるが、テレワーク拡大→オフィス需要減→賃料減収という経路でコロナの影響が及ぶのではないかとみられている。東急の不動産事業の中心地である渋谷は、製造業などよりもテレワークと親和性があるIT関連企業の集積が目立つエリアのためだ。富士通が7月6日、「通勤定期代支給廃止」(これはこれで鉄道事業を直撃するが)とともに「オフィス半減」を発表して話題となったが、そうした動きが広がっても不思議ではない。
一方、東急グループには東急不動産ホールディングス(HD)という不動産会社があってややこしい。戦後まもなく東急電鉄から独立し、現在は東急が約16%を出資する。ちなみに「東急ハンズ」は東急不動産HDの傘下にある。将来的に統合するのではないかとみる向きもあるが、長年別会社でライバルでもあっただけに簡単ではないようだ。また、東急不動産HDの営業利益(ハンズなども含む)は20年3月期に793億円で東急の不動産事業の2~3倍程度と大きいことも話を複雑にする。というわけで、両社で重複する部分を整理し効率化を図れば、筋肉質になりそうだが、そうも行かないところが株価にも影響している模様だ。
ただ、野村証券がカバーする私鉄6社について6月25日付でまとめて出したリポートでは、投資判断について東急のみ3段階の最上位の「Buy(買い)」で、他5社は真ん中「Neutral(中立)」だった(京成電鉄がBuyから格下げで他は評価を維持)。東急については「コロナ感染が終息するとみる2023年3月期に渋谷の再開発効果が顕在化する」と指摘。このように東急に対して悲観論一色というわけではないものの、鉄道業界のなかでは主力のホテル・レジャー事業が打撃を受けている西武ホールディングスなどともに株価大幅下落組であるのも事実。東急株が再び上昇するためには、渋谷の不動産事情について力強い材料が必要になりそうだ。