抗議運動は米国史上、最大規模に
実際、コルビが投稿したFBのコメント欄でも、一部で非難の応酬が起きている。が、ほとんどの人は、血の通った投稿に「これが本来、あるべき姿だ」と共鳴や感謝の思いを寄せている。
あとで調べてみると、この投稿が公開された数時間後の夜には、ファーゴの街でも略奪や破壊などの暴動が起きていた。が、他の地域と同じように、抗議デモはその後もおおむね、平和的に行われている。
コルビの投稿には、次のようなコメントが寄せられている。
「ほとんどの人は人種差別主義者なんかじゃない。自分の支持政党を推すために、分断をあおる人たちがいる」
「見ていて、泣けてきた」
「希望が見えてきた。僕たちみんなの問題だ。みんなで手を取り合おう」
「誰もがこのようになり得ると、人々は理解していないようだ。同じ警察、同じ武装、同じ集会。人々が礼儀正しく、非暴力で人間的に振る舞えば、こうした光景になる。よい警官と悪い警官は根本的に違うと、メディアは嘘をつきたがる。が、暴動が起きれば、よい警官もよい警官のままではいられない。ただ『本当にひどい』警官はごく一部だ。こうした警官は一掃すべきだし、そもそも雇われるべきではない」
全米、さらに全世界へと一気に広がった黒人差別に対する抗議運動は今もなお続いており、米国史上、最大規模になると見られている。長い歴史のなかで社会に深く組み込まれた「制度的人種差別主義(systemic racism)」の存在に、今回の運動をきっかけに改めて気づいた人も多い。が、同時に、さらなる分断も生んだ。
一部の極右・極左の人たちを除けば、人々の思いはそれほど変わらない。アメリカ人のほとんどが、フロイドさんの死は白人警官による「殺害」であり、警官は厳しく裁かれるべきだと信じている。そして、程度の差こそあれ、今の警察には改革が必要だと感じている。
黒人差別は根深く大きな課題だけに、ともに手を取り合わなければ前進は望めない。そして、双方の声に耳を傾けなければ、国としての成長もない。激しく相手を攻撃し、暴力的な手段を取ることは、憎しみや怒りを増幅させるだけだ。制度は変えられても、人の心にある差別意識を力づくで取り除くことはできない。
1960年代の公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師は、こう語っている。
「私たちは兄弟姉妹として、ともに生きていく術を学ばなければならない。さもなければ、愚か者としてともに滅びることになる」
We must learn to live together as brothers or perish together as fools.
今回、フェイスブックに投稿したコルビに、「投稿の中であなたが民主党支持者と名乗ったら、こんなに大きな反響はなかったと思うか」と聞くと、「そう思う」と答えた。
投稿をシェアした私の友人ロバートがトランプ支持者であり、投稿やシェアすることはほとんどない。そうコルビに伝えると、驚きながら「それは嬉しいね」とつぶやいた。
(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。