新型コロナウイルスの感染問題を機に、都心などのオフィス需要が縮小する可能性が高まっている。感染防止のためテレワークなどの在宅勤務が広がり、富士通がオフィス面積を今後、半減すると決めるなど、オフィス削減の動きが出始めているのだ。
コロナ禍による景気悪化などの影響で東京都心のオフィスビルの空室率は実際に悪化しており、オフィス市場が転換期に来ているともいえそうだ。
「テレワークへの転換はそれほど難しくない」との気づき
富士通は2020年7月6日、働き方を抜本的に見直すための取り組みを発表した。目玉は、国内のグループ会社も含め、オフィスの床面積を23年3月末までに半分に減らすという計画だ。従業員の勤務形態はテレワークを基本とし、現在賃貸契約しているオフィスを約3年かけて順次解約。エリアごとに主要拠点となる「ハブオフィス」や会議などに使う小規模な「サテライトオフィス」などに集約する。オフィスの賃料のほか従業員の通勤定期券の負担がなくなり、同社は「コストメリットもある」と説明している。
満員電車に乗って出社するのは当たり前の光景だったが、多くの企業がコロナ禍を機にやむを得ず在宅勤務を強いられることになった。くしくも政府による「働き方改革」の大号令が発せられている最中だったこともあり、在宅勤務を取り入れた多くの企業が「テレワークへの転換はそれほど難しくない」と気づいた。富士通がオフィス半減の大改革に踏み切るのも、緊急事態宣言が発令された際、約9割を在宅勤務にした経験がきっかけになったという。
富士通のような大手企業の動きはまだ少ないが、既に中小のIT企業を中心にオフィス解約の動きは広がっている。IT企業は元々、パソコンと通信環境が整った場所さえあれば業務が可能な場合が多く、都心などに大きなオフィスを構える必要性は小さい。コロナ禍で社会全体に在宅勤務が急増したうえ、業績悪化もオフィス解約を後押ししている。都心でオフィスを借りれば、月数百万、数千万円を支払うケースも少なくなく、オフィス解約は手っ取り早いコスト削減にもつながる。あるIT企業関係者は「これまで頻繁に使っていたスペースでもないのに大金を支払っており、コロナ問題で無駄な出費だと気づいた」と話す。
「オフィス離れ」は進むのか
こうした動きから都心などでは解約の動きがじわじわ広がっている。オフィス仲介の三鬼商事が発表した6月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス平均空室率は前月比0.33ポイント上昇し、1.97%になった。水準としてはなお歴史的な低さだが、悪化は4カ月連続で、今回の上昇幅は2010年2月以来、10年4カ月ぶりの大きさだ。
都心の大型ビルなどでは、対処申し込みが相次ぐといった事態は生じていないが、ある不動産関係者は「オフィス需要はコロナ問題前から、そろそろピークとの声があった。オフィス離れが進めば今後が心配だ」と、不動産市場の異変への警戒感を隠さない。