ツイッター上では日々、悪質な盗撮の事例が多数報告されている。中には、「鳥」、「逆さ」といった用語を用いて盗撮画像の売買を行うものや、自身のツイートが拡散されれば「盗撮されたとみられる画像の女性の裸」を公開すると述べるアカウントも存在し、批判の声が上がっている。
そんな中スパイカメラといわれる小型カメラに注目し、「盗撮犯罪を促進する小型隠しカメラ販売の規制を求めます!」とする署名への参加を呼びかけるツイッターアカウントが現れた。署名活動に至った背景や経緯はどういったものか、なぜ小型カメラに注目したのか、規制ではどのようなことを求めていくのだろうか。
J-CASTニュースは、署名サイトでの活動を立ち上げたツイッターアカウント「ぴるぴるちゃん」(仮名 小川夏海)さんと、その活動を支援する「ナイト産業を守ろうの会」に取材を行った。
「何度も盗撮被害にあい、恐怖と不安を感じながらも対策ができなかった」
「盗撮」は、各都道府県の条例などによって犯罪となる可能性がある。2019年12月の神戸新聞報道によれば、自宅に呼んだデリバリーヘルス(派遣型風俗店)の女性をスマートフォンで正当な理由なく撮影したとして、兵庫県警は県迷惑防止条例違反の疑いで同県姫路市内に住む会社員の男を逮捕した。
盗撮については警視庁サイトで、スマートフォンの普及や技術の進歩により、高性能で小型のカメラやカメラ機能を搭載した機器が普及し、公共の場所や公共の乗物以外の場所における盗撮行為が多発していると記している。
このような盗撮被害を防ぐために、小型カメラの販売規制を求めるオンライン署名を2020年7月19日頃に立ち上げたツイッターアカウント「ぴるぴるちゃん」(以下 小川さん)に電話やメールを通じて取材した。彼女は24歳の女性で、風俗嬢だという。
「『見ず知らずの人に勝手に玩具にされる』この盗撮は人として、女性としての尊厳を完全に無視される事態で、性的なサービスをする人間にとっても恐ろしいことです」
と指摘。仕事での不条理は多々あるとしながらも、「その中でも特に心身を削る犯罪行為」として盗撮を挙げる。しかし風俗業界では、風俗業に従事しているという後ろめたさや、お店と個人事業主といった弱い立場から、泣き寝入りをしてしまっている人が多いと述べる。
「風俗嬢として、日々のTwitterでの報告を見てきて、また、いち被害者としてこの現状をどうにかできないか?どうにかしたい!と思ったことが発端になります」
と、「盗撮犯罪を促進する小型隠しカメラ販売の規制を求めます!」というオンライン署名を立ち上げた経緯を語った。
ツイッター上では、性犯罪への関心が高まっている。そのきっかけの一つに、ハフポストが3月に報じた、韓国での盗撮(韓国語でモルカ)を含む悪質な性犯罪事件があり、対岸の火事ではないと日本語のユーザーの間でも話題となっていた。こうした性犯罪への関心が高まる中で、盗撮画像の販売を行っていると見られると見られる日本語のツイッターユーザーアカウントも数々報告されている。7月22日現在、編集部が盗撮画像の隠語であるとされる「逆さ鳥」で検索すると、盗撮とみられる画像を投稿しているアカウントをいくつか確認できた。中には学校内で撮られたようなものもあった。こうした状況があり、小川さんのように「見ず知らずの人に勝手に玩具にされる」恐怖を覚えている女性は少なくはない。
なぜ小型カメラに注目したのか
盗撮被害の当事者が声をあげたことを受け、「ナイト産業を守ろうの会」という団体が後方支援という形で署名活動に協力した。この団体は主に、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による国の対応について声を上げる活動をしているという。
「ナイト産業を守ろうの会」大阪支部のFU-KEN(匿名)さんは、自身も性風俗店を経営しており、以前から盗撮事件が増加していることを危惧していたと語る。
「性風俗店の経営者として10年経ちますが、年々盗撮事件が増えています。私の店でも、車のキー型やネックレス型の盗撮がありました。気付かないものも含めるともしかすると数はもっと多いかもしれません。自分自身も盗撮機器の規制について声を上げられないかと考えていたところに、ぴるぴるちゃんさん達の活動が始まったので是非協力したいと思いました」
そして、小型カメラに注目した理由についてはこう語る。
「うちの店ではスマホでの盗撮事件も起こっていますが、盗撮機器よりは気付きやすいと感じています。巧妙な機器が増えていること、それらがAmazonなどで売られていることにも問題を感じました。 また、韓国での盗撮(モルカ)のニュースを見て、性風俗店だけに限らない大きな問題だと感じました」
同団体の代表であり、行政書士の佐藤真さんも、
「小型カメラ等を使用する事で盗撮被害を被害者が気付きにくくなり、動画や静止画がネット上に拡散し、それにより回復困難な被害に遭う危険性を事前に阻止すべき点及び、盗撮犯罪を行う行為者がバレないだろうと容易に犯罪を決意し実行する心理的要因の抑止という点です」
と小型カメラの規制を求める理由を語った。
小型カメラは現在、ネット通販などで誰でも簡単に入手することが出来る。本来の用途は、「いじめ」、「DV」などの告発や防犯などとされており、性的な盗撮などは行わないように呼び掛けている販売サイトもある。しかし、このような販売業者2社に、J-CASTニュースは取材を試みたがどちらも断られてしまった。
署名の発起人である小川さんは、小型カメラでの盗撮は被害者が気づきがたいために被害の予防が困難であると述べる。
「私の身の回りの嬢のほとんどは『盗撮にあったことがある』『被害にあった子を知っている』と口を揃えて言っています。それほど多くの人が恐怖や不安と戦わなければいけないことはまず、おかしいし変えていくべきだと考えます。(署名サイトの)change.orgでも書きましたが、スパイカメラは盗撮犯罪を遂行する上で利用されやすく、かつ被害者は盗撮に気が付き難く、予防が困難なんです」
どうやって小型カメラでの盗撮を発見したのか、何に気を付ければいいのか
そんな発見が困難である小型カメラでの盗撮に、小川さんたちはどのように気付いたのか。小川さんは、「Twitter上で嬢の中で共有している盗撮発見の仕方、注意の仕方」として、下記を挙げる。
・小さな穴に気をつける、レンズに気をつける
・メガネ型の盗撮器具は縁の部分が熱くなる
・アクセサリーなどは1度触って確認させてもらう
・珍しいメーカー名の時計には気をつける
・盗撮盗聴発見機を持ち歩く
・バッグやライターの置き場所に気をつける(1箇所にまとまっていない時は複数視点から撮ろうとしている盗撮犯のことがある)
・服をかける際はポケットに盗撮器具が仕込まれていたりするのでクローゼットの中に入れるまたは表面を壁側に向くようにかける
・おかしな場所にある報知器はホテルに事前に来て取り付けていることもある
小川さんは仕事中に盗撮被害に遭いやすいとし、ツイッター上の同業者と情報共有や注意喚起を行っている。そのいくつかの項目が上述したものになる。さらに、盗撮盗聴発見器を所持していなくても下記の方法が有効であると述べる。
「部屋を暗くする。それから、スマートフォンのカメラ機能を使い(赤いランプ)が光っていないかに気を配ること」
暗い部屋にスマートフォンのカメラ機能を向けると盗撮機の赤いランプが確認できるというライフハックはやはり、ツイッター上で以前から有効だと報告されている。小川さんも、こういったツイートを見て実践したところ、実際に盗撮機を発見したとのことだった。そのほか、挙動不審な相手が何故か高所に腕時計を設置したため、確認したところ盗撮用の小型カメラだったという。
「携帯の充電器、財布、バッグ、服、靴、すべての物にとにかく警戒をするしかありませんね」
規制で求めることは・・・
盗撮に関する被害報告や注意喚起は主に風俗関係者の間で頻繁に行われている。この理由について、FU-KENさんに見解を尋ねると
「性風俗店の場合、盗撮があった場合の対策もキャストに伝えているため比較的発見しやすい、発見したときに行動がしやすい、という部分があります。性風俗店以外で、例えば道を歩いているとき、浴室で着替えをしているとき、例えばそこまで親しくない人(セフレなど)とセックスをするとき、盗撮のことを警戒する人は稀だと思いますし、発見したとしても言いづらいということがあると思います。怪しいと感じていても確証を得られなければ何も言えないこともあると思います。性風俗店で働く以外の場合にも使用されている可能性はあると思っています」
と発見のしやすさを挙げる。さらに、性風俗店で働く以外の場合にも使用されている可能性もあるとし、性風俗関係者に限った問題ではないという見方を示した。
小川さんたちは、このような悪質な盗撮を防ぐため、小型カメラの販売に対する規制を望んでいる。ただし、小川さんらは決して小型カメラの廃止や禁止を訴えるわけでなく、購入に個人情報の登録を必要にすることや、悪用しないという誓約書を科すといったことを望んでいる。佐藤さんは求める規制の内容として
「一、小型カメラ等の販売、購入の事前許可制
二、小型カメラ等の不当目的所持に関する規制」
と回答。さらにFU-KENさんは、
「盗撮行為は都道府県の迷惑防止条例での取り締まりになっていますが、重大な犯罪として厳罰化を望みます」
と、盗撮行為自体への厳罰化も望むとした。