オウム真理教による地下鉄サリン事件から四半世紀を迎えたのを機に、公安調査庁が2020年7月17日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見した。公安調査庁が同協会で会見するのは初めて。
同庁では19年12月に「あのテロ事件から四半世紀~今も変わらないオウム真理教~」と題した啓発動画をユーチューブに公開。その英語の吹き替え版が公開されたことや、元代表の松本智津夫(麻原彰晃)元死刑囚らオウム幹部の死刑が18年7月に執行されて2年になることから、オウム後継団体の危険性を改めてアピールすることにした。
公安調査庁では、団体規制法に基づいて後継団体「アレフ」などの立ち入り検査を続けている。今でも、松本元死刑囚の教義に基づく修行が行われているとして、オウムが子ども向けに使っている教材などを紹介。信者の勧誘活動も行われているといい、「オウムはまだ歴史ではなく、解決していない問題として存在している」などと訴えた。
2020年3月には14人目の犠牲者
地下鉄サリン事件は、1995年3月20日午前8時頃に発生。オウム真理教の幹部が東京の地下鉄日比谷線や丸ノ内線など計5本の車内でサリンをまき、計13人が死亡し、6000人以上が重軽傷を負った。重い後遺症と闘ってきた浅川幸子さんが20年3月10日にサリン中毒による低酸素脳症で死去し、14人目の犠牲者となった。
公安調査庁のまとめによると、オウム後継団体の信徒数は約1650人(出家:約300人、在家:約1350人)で、19年10月時点での資産は約12億9100万円にのぼる。寄付や、拠点で開かれるセミナーの参加費で集金しているとみられている。活動拠点は全国15都道府県に31施設あり、公安調査庁では19年には12都道府県の25か所に対して立ち入り検査を行った。
会見した公安調査庁の渡部亜由子・調査第二部第一課長は、「今でも麻原の教義に依拠した修行が行われている」として、松本元死刑囚の著書の内容を暗記させたり、その理解度を確認するための試験が行われたりしていると指摘した。
それ以外にも、円形に設置したスピーカーの真ん中に座り、松本元死刑囚の声を大音量で流す「音のイニシエーション」や、松本元死刑囚の言葉が電気に変換され、それが体に流れるとする「炎のイニシエーション」がいまだに行われている、とした。
松本元死刑囚の「マントラ」データ化した「甘露水」のタンクも
19年1月に行われた「アレフ」の名古屋施設に対する立入検査では、「甘露水」と呼ばれる水のタンクも確認された。公安調査庁の説明によると、「甘露水」とは、松本元死刑囚が唱えるマントラ(呪文)のデータを教団が独自に作成した装置を使用して電気信号に変換したものをタンクに貯めた水に流して作る「聖水」とされる水のことだ。「こういった水は、今でもほとんどの施設で見つかる」(渡部氏)といい、松本元死刑囚への崇拝が続いているとみている。
若年層への浸透も問題視している。14年には「小学生の真理」と題した児童向け教材、16年には松本元死刑囚のイラスト入りのかるたが確認されており、「こういった教材を、若い信者に教義を教え込むために利用している」(渡部氏)。それ以外にも、「ヨガや精神世界に興味はないか」などとして教団名を隠した上で、書店や街頭での勧誘活動が行われていることを指摘。教団名を明かす際には、
「サリン事件は伝えられているようなものではなく、政府やメディアの陰謀だ」
といった説明を展開しているとみられる、などと説明した。
こういった状況を念頭に、渡部氏は
「サリン事件から四半世紀が経っても、オウムはまだ歴史ではなく、解決していない問題として存在している」
と強調した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)