地方紙の編集局長も辞任
東部ペンシルベニア州でも、地元紙の編集局長が辞職に追い込まれるケースがあった。黒人差別撤廃の抗議デモで、「黒人の命は大切だ(Black lives matter)」と叫ばれるなか、2020年6月2日、同州の地元紙「フィラデルフィア・インクワイアラー」が、「建物も大切だ(Buildings Matter, Too)」との見出しで、暴動の破壊行為に関する記事を掲載したところ、「黒人の死と物の損害を、同列に見ている」などと、社内外から批判が殺到した。同紙は「見出しはひどい誤りだった」と謝罪し、6日、編集局長の辞職を発表した。
「ニューヨーク・タイムズ」の編集者、ワイスさんの今回の辞任を受けて、トランプ大統領はツイッターで、「おお! 『ニューヨーク・タイムズ』が厳しく非難されている。本当の理由は、フェイクニュースに成り下がったからだ。私のことを絶対に正しく報道しない。失態を犯した。人々は逃げ出している。もう、めちゃくちゃだ」とつぶやいた。
保守系のFOXニュースは、ワイスさんを全面的に支持。民主党支持で左派寄りのCNNとMSNBCが、このことを「1秒も(テレビで)報道していない」と批判している。
一方で、主に民主党支持者らは、ワイスさんに対して「さまざまな意見に声を傾けるべきというのなら、あなたに対する批判も否定するべきではない。ツイッターで同僚があなたを批判しようと、それも言論の自由だ」と反発している。
また、ワイスさんが反ユダヤ主義を厳しく批判しており、パレスチナやアラブ系研究者に対して攻撃的な立場を取っていたことも、批判の理由に挙げている。
一連の辞任について意見は分かれるものの、ワイスさんのようにメディアの言論規制を感じながら、声を上げられない記者や編集者は今、アメリカで少なくない。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。