つり革につかまらないでダイエットをしよう――。こう呼びかけた女子高生向け雑誌「セブンティーン」の記事に対し、路線バス運転手がツイッターで苦言を呈し、記事が削除される騒ぎになっている。
もしケガでもしたら、運転手の責任にされかねないというのだ。発行元の集英社は、「車内での転倒事故につながる恐れがある危険なもの」だったと認め、公式サイトなどで謝罪した。
「体幹トレーニングの大チャンスなんだよ」
女子高生らしき制服を着た少女が、リュックの肩かけ部分を持って、バスの揺れに耐えている。セブンティーン公式アプリの2020年6月22日付記事では、こんな写真を載せて、「やせたいならコレ!」とPRした。
電車やバスに乗っているときに勧めたいエクササイズだといい、「ゆれる電車やバスは、体幹トレーニングの大チャンスなんだよ。どこにもつかまらずに、体幹を意識しながらバランスをとってね!」と呼びかけた。
ただ、注を入れて、「急ブレーキとかで本当にヤバイときはすぐにつかまるべし」としていた。
この記事を引用して、異議を唱えたのが、路線バス運転手というツイッターユーザーだ。
バスの走行中に客がつり革につかまらずに転倒してケガをしたら、警察から運転手の責任にされてしまうといった内容で、13日にツイートした。通常の事故と同じように、警察の現場検証が行われ、他の客は後続のバスに乗り換えないといけないうえ、運転手も警察から違反切符を切られる可能性もあるとした。
運転手は、急ブレーキをかけたときは、乗客の体が飛ばされてつり革につかまれないと指摘し、骨折ばかりでなく命の危険もあると訴えている。
ツイートは、1万件以上もの「いいね」が付いており、運転手の意見への共感の声が相次いでいる。
「転倒事故につながる危険があり、常識を欠いていた」
ツイッター上では、「事故になったらどうするの」「乗客側でも車内の安全乗車マナーを守りたい」「そもそもバスの中は体を鍛える場所じゃないんだけど...」などと記事への疑問や批判が寄せられている。バスの運転手という別のユーザーらからも、投稿が相次いでおり、「このような行為は、絶対やめて頂きたい」「これで怪我したりしたら最悪運行停止になります」「免許に傷がついたり、給料ボーナス減らされたりします」と嘆く向きが多かった。
乗客がつり革につかまらずに転倒した事故については、横浜市内で2011年に路線バスの急発進で高齢者の女性が転倒し、3か月後に死亡した事故で、当時の運転手が自動車運転過失致死罪に問われ、13年9月26日に禁錮2年、執行猶予4年の有罪判決が言い渡されたケースが報じられている。このほか、運転手らに高額の賠償金が命じられた判決例もいくつか報じられており、乗客に一部過失が認められるケースはあるものの、運転手側に厳しい内容も多い。
集英社の広報部が7月14日にJ-CASTニュースの取材に答えたところでは、この記事は、4月1日発売のセブンティーン5月号にも掲載された「絶対に太ってはいけない痩身ハイスクール24時!」にも出ていた。ダイエット効果が期待できる日常生活の中の工夫を紹介したというが、「車内での転倒事故につながる恐れがある危険なものでした」と認めた。
そのうえで、「利用者の安全と円滑な運行を心がけていらっしゃる公共交通機関のみなさまへの敬意と配慮、多くの読者にお読みいただいている雑誌としての常識を欠いておりました」としており、14日19時ごろに雑誌の公式サイト・アプリ・ツイッターでお詫びを載せた。
なお、この記事は、指摘があった13日の11時に削除したことを明らかにした。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)