「出願が通っても通らなくても、目的は果たされます」
リスクを懸念した背景には、お膝元の石川町で起きた商標権をめぐる「母衣旗(ほろはた)事件」(東京高裁1999年11月29日判決)がある。判決文によると、同町にある「母畑(ぼばた)」という地名は、源義家の母衣と旗にまつわる「母衣旗」が転化したという伝承があり、町は地域振興のため、地元業者の産品に母衣旗という言葉の使用を奨励。ところが、そうした事情を知っていたであろうにもかかわらず、食肉などを指定商品に「母衣旗」を商標登録した企業A社が現れた。
A社が商標権侵害を主張した相手の1つは、「母衣旗まんじゅう」の名で商品を販売していた製菓会社B社。2400万円の損害賠償を請求されたB社は、まんじゅうが指定商品に含まれないとして請求を拒否したが、トラブル回避のため「母衣旗」の名前の使用を中止した。最終的にはA社の商標登録は公序良俗違反により無効となったが、石川町が最初に登録無効の審判請求をしてから5年を要した。
「身近な場所で製菓会社と商標をめぐる問題があったことを考えると、弊社が『アマビエ』の商品を販売していくには、商標出願は必要な手順でした。世の中には『商標ゴロ』みたいな人がいて、商標が悪用されるおそれがあるということも知りました」(同)
前出のとおり、お菓子のさかいは同業他社によるアマビエの使用を排斥する考えはない。むしろ「誰でも使えるようにする」つもりだという。
「もし商標権が取得できたら即座にオープンにし、誰もが商標を使えるようにする予定です。そのことを表明する文章も出願時から考えています。誰かが商標権を取り、誰でも使えるようにするが一番安心なんじゃないかと思います」(同)
逆に、審査の結果として商標登録が却下されても「それはそれでいい」と考えている。
「弊社の出願が却下されたら、その後は他の会社さんが同じようなアマビエの商標を出願することはないでしょう。担当の弁理士が申請させないと思います。そうなれば(商標登録されることがなくなり)誰でもアマビエの菓子を作れるようになりますから、『自社商品を販売できるようにする』という目的に合致します。弊社としては出願が通っても通らなくても、どちらにせよ目的は果たされます」(同)