「モスクの絵文字」専門家に聞く懸念点 人気ゲーム「ツイステ」ファン呼びかけで注目

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「どうか他の絵文字に替えていただけますと幸いです」

   人気ゲーム「ツイステッドワンダーランド」(以下ツイステ)に登場するキャラクター「カリム・アルアジーム」(以下カリム)を、イスラム礼拝施設である「モスク」の絵文字で表現するファンが疑問視され、「使用を控えるように」という呼びかけが広がっている。

    モスクとはどういったものであるのか、モスクの絵文字を使うことにどのような懸念があるのか、J-CASTニュースは専門家に尋ねた。

  • モスクの絵文字
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映画「アラジン」からの連想か

   事の発端は、あるツイステファンが2020年7月3日に投稿したツイートだ。投稿者は、「海外の方から教えていただいたのですが、宗教的シンボルをカプやえっちなものに連想させることがイスラム教徒のファンの方にあまりよく思われないようです」と、カリムを示す語にモスクの絵文字を用いることを控えるように呼び掛けた。

   ツイステは、ウォルト・ディズニー・ジャパン協力のもと制作されたスマートフォンゲーム。登場キャラクターはそれぞれ既存のディズニー作品をモチーフとしており、カリムは、ディズニー映画「アラジン」の世界観に立脚したキャラクターだとされている。そのため、ツイステのファンたちは、映画「アラジン」内で宮殿として描かれた建物の形に似ているモスクの絵文字を、カリムを指すために用いているとみられる。

   しかしこの絵文字とともに寄せられるファンアートには、発端となったツイートでも指摘されたように、性的なイラストも含まれており、いわゆる「隠語」としてモスクの絵文字を利用することに、疑問を覚える声も上がっていた。実際に「"モスクの絵文字"  ツイステ」とツイッター上で検索をかけると、キャラクターの感想や考察、イラスト・漫画・コスプレなどのファンアートが多数投稿されているのが確認できた。また、他のキャラクターを表す絵文字と併せて検索すると、一部性的なものを匂わせる作品が確認された。

そもそも「モスク」とは?

   モスクの絵文字を用いることを控えるように呼び掛けが広がる一方で、モスク自体を知らないというファンも。絵文字を利用していた人の間にも、モスクやその意味を知らなかったという声が一部で上がった。J-CASTニュースは、イスラム教に詳しい大学教授に、イスラム教における「モスク」について尋ねた。この教授は「アラジン」及び「ツイステ」を知らないため、今回の件をめぐる詳細な状況はわからないとしつつ、以下の見解を語った。

「まず、イスラームにおけるモスクとは、その名(マスジド)(編集部注:「モスク」のアラビア語読み。モスクは英語)の示す通り、礼拝をおこなう場所を指し示すものです。しかし、『この地上はすべてマスジドである』という預言者ムハンマドのハディース(編集部注:ムハンマドの言行録)に示されるように、ここでなければならないということはなく、ムスリムが礼拝のためにぬかづく場所がすなわちマスジドであると言えます。ですから、大学の一室でも、駅の構内でも、公道上でも構いません。ただし、できれば避けるべき場所として、ゴミ捨て場、墓地、トイレ、屠畜場他があります」
「同様に、モスクの形状はたまたま現在のような形に歴史を経てなっていますが、このようにせよという外観の規定があるわけではありません。むしろ、あのタマネギ型ドームには、キリスト教会堂からの影響も指摘されています。ウズー(編集部注:お清め)なども行なわれるように、本来モスクは信徒にとって清浄な場所と言えるでしょう。一般論として、それを異教徒に破壊されたりよごされたりしたくはないでしょう。寺や神社を考えてもお判りいただけると思います」

   「モスク」は、外観に規定があるわけではないが、礼拝をおこなう場所を指し示すものであると教授は述べる。今回の絵文字は、「モスク」と入力して表示されるものであるため、やはりイスラム教徒の礼拝をおこなう場所を指し示すものであることは確かだろう。

「極端な場合、テロ事件に波及することも」

   そんなモスクの絵文字は、ムスリム(イスラム教徒)の間で特別に意識されているのだろうか。J-CASTニュースは、中東メディアに詳しい、日本エネルギー経済研究所中東研究センター長の保坂修司氏にも尋ねた。

「絵文字は、アラビア語でも他のアラビア文字系言語でもふつうに用いられています。アラビア語ではそのままエモジ(素直に読めば、イームージー)と呼んでいます。アラビア語のツイートなどでモスクの絵文字が用いられるのはそれほど多くはないと思いますが、実際、わたし自身、今まで意識したことはありませんでした」

としたうえで、

「それが異教徒によって性的な文脈で用いられていれば、怒る人が出るのは当然でしょうね。侮辱と取る人が出ても不思議はないと思います。また、極端な場合、テロ事件に波及することもあります」

と警鐘を鳴らす。

   また、過去にイスラム教に関するものやそれに類似するものを、非イスラム教的文脈で利用し、問題となったような事例も挙げる。

「宗教に関わる文字やイラストが侮辱や冒涜になるとして、大騒ぎになったケースは多数あります。比較的古いところでは、ナイキのエアマックスのロゴだったか、靴底のパターンだったかがアラビア語で『アッラー』と読めるというのでムスリム側から抗議が出て大騒ぎになり、回収になりました」
「預言者ムハンマドの風刺画事件が、多くの死者を生むテロ事件に発展したのはご存じだと思います」

   ニュースサイトSankeiBizによると、ナイキは1997年、スポーツ用シューズのロゴがアラビア語のアッラー(神)の表記に似ているとして一部製品ラインを回収した。2019年にも同社の「エアマックス270」が同じような理由でリコールを迫られた。預言者ムハンマドの風刺画事件は、ムハンマドの風刺画を載せたフランスの週刊紙「シャルリーエブド」の本社が2015年に襲撃された事件や、それに続く一連の騒動を指す。

中東各地でアニメ放映、近年は漫画流通も

   またアニメに関して保坂氏は、「ジョジョの奇妙な冒険」の漫画とアニメDVDの出荷停止についても言及した。

(関連記事:集英社、「ジョジョの奇妙な冒険」一部出荷停止、2008年5月22日配信)

「日本でもジョジョの奇妙な冒険のアニメの1場面で悪役がクルアーン(編集部注:イスラム教の聖典。コーランとも呼ばれる)を読んでいるというので、一部のあいだでのみですが騒ぎになりました」

   保坂氏は、アニメ関係はアラビア語話者でも見ている人が多いので要注意だと述べる。実際、中東各地で日本のアニメは放映されており、現在は漫画の流通も進み始めている。さらには、エジプトの「エジコン」のように、日本の同人イベントのようなサブカルチャーイベントも開かれており、こちらの公式サイトを参照すると日本のマンガやアニメのキャラクターのコスプレを行う人が多数確認できる。このように、中東から日本のサブカルチャーへの関心は高い。アニメをめぐっては、昨年にも「鬼滅の刃」関連商品がイスラム教に関する音声を使用したために回収騒動が起こっている。

(関連記事:イスラム教音声を「不適切使用」 アニメ「鬼滅の刃」関連商品、出荷停止・在庫回収へ、2019年11月22日配信)

   イスラム教に限らず、他国の文化的象徴を異なる文脈で用いることは注意が必要だろう。ツイステファンの中には、米人気タレントのキム・カーダシアンさんが補正下着ブランドに「KIMONO」と命名した問題を連想して、「私はあの時嫌だったし、海外からの抗議の声嬉しかったから協力したいな」とつぶやく人もいた。

(関連記事:下着に「KIMONO」命名問題、京都市長が「再考」要求 「私的に独占すべきものではない」、2019年06月29日配信)

   現在、ツイステのファンの多くは動物のアイコンを用いるなど、代用の絵文字を検討している。

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