演劇は「一旦お休みですね」
それにしても大学時代は就職活動をせず、夢中になっていた演劇のために身一つで上京した佐藤さん。就職という道を選ぶことに葛藤はなかったのか。
「葛藤ですか? あまりありませんでした。大学時代もそうでしたが、いろんなことに折り合いをつけられないんですよ。演劇だったら演劇ばかり。それに、人と違う方向を選びたがりで、逆張りみたいなことばかりしてました。就職活動をする気が出なかったのもそういうところだと思います。
でもコロナで演劇もバイトもなくなって、まったく生活が変わった時に、逆に就職してみたいと思うようになりました。自分に対する逆張りですかね。『一度、自分も裏切っていこう。だから就職しよう』と。特別な知識もないし、特別やりたい仕事もない。今までは好きな演劇ばかりやってました。だから変にこだわらず、自分で選択肢を絞らないようにしました。働かせていただけるところで働きたい」
就職にあたって考えているのは「いろんな経験をしたい」ということだ。
「言い方は良くないかもしれませんが、2011年の地震と津波も『経験』と思う部分があります。僕は津波で家をなくしたんですよ。津波が実家の2階まで来て、近くで出火したのが家に移って、燃えてなくなりました。燃える家を、僕の隣で祖母が見ていました。祖父母がもともと持っていた家を、震災の2~3年前に増築して一緒に暮らしていたんです。たった3年だったとみんな悲しくなりましたし、今でも実家のことを思い出します。そのことを踏まえても『経験として大切なことだった』と思っています。人生のテーマとして知見を広げていきたいと思っているし、広げないといけない」
この新型コロナウイルスを経て人生は変わったと思うか。「それは変わりましたよ。絶対に変わりました」と即答する。就職に前向きなのは伝わったが、演劇はどうしていくつもりなのか。
「一旦お休みですね。休まざるを得ないですし、仕事に集中してみたい。高校、大学、今と、演劇のない生活がなかったんですよ。一度演劇から離れて、それでも生きていけるならそこまでの存在だったのかもしれないし、離れることで逆に情熱が湧いてくるかもしれない。ただ、大学の同期と『卒業10年で集まって演劇やろう』と話しているので、それだけは果たしたいですね」
演劇が好きで、ただただやりたかった気持ちを「裏切った」佐藤さん。「未知の人生ですが、目の前のことを頑張ります」と話している。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)
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