関西経済界で権勢をふるってきた関西電力が失速している。
歴代幹部による金品受領問題や役員報酬の減額分を密かに補?していた問題を株主に追及され、総額19億3600万円の損害賠償を求めて3人の社長経験者を含む元取締役5人を提訴したこともあり、「関西経済界の顔」となる人材を当面送り出せなくなったからだ。2025年の大阪・関西万博で関電が狙っていた「晴れ舞台」に立てない可能性も出てきた。
「関西経済界の顔」経験者を見舞った不祥事
2020年6月16日に関電が大阪地裁に提訴した3人の社長経験者は、森詳介元相談役、八木誠前会長、岩根茂樹前社長。関電は個人株主の提訴請求を受けて、外部の弁護士4人による取締役責任調査委員会を設け、その調査委から元取締役5人が関電に計約13億円の損害を与えたと認定したと報告を受けていた。これに半年をかけて一連の問題を調べた第三者委員会の人件費などの経費を上乗せして約19億円に膨らんだ。6月25日に開かれた関電の定時株主総会では、一連の問題を受けて森本孝社長が「多大なご迷惑とご心配をおかけした」と株主に陳謝した。
調査委の認定によると、3人の社長経験者のうち八木氏と岩根氏は金品受領問題で注意義務違反があったとされた。八木氏と森氏は東京電力福島第1原発事故後の電気料金値上げに伴って削減した役員報酬を退任後に密かに補?していた問題で責任を指摘。金品受領問題を非公表とした判断の責任については八木氏と岩根氏にあるとされた。報酬補?は金品受領問題を第三者委が調査する過程で発覚したものであり、いずれの問題にも歴代社長が関与していたことが判明して関電内部の「伏魔殿」ぶりを印象付けた。
しかも、森氏は2011年から2017年にかけて公益社団法人関西経済連合会(関経連)のトップである会長を務めた人物だ。関経連とは、1946年8月に東京で発足した経団連に対抗して、同じ年の10月に設立された京阪神を中心とした総合経済団体であり、戦後復興や大規模プロジェクトに際して関西経済界の調整役を務めてきた。その会長は「関西経済界の顔」であり、発言は関西において大阪府知事や大阪市長に匹敵する重みがある。
元経団連会長が関経連トップ...はさすがに?
その会長に就く人物は、ふさわしい格を持ち、東京の政財界に対して発言力がある企業の社長経験者が暗黙の条件となっている。この四半世紀で関経連会長を送り出した企業は、関西電力か、関西にルーツを持つ住友グループしかない。現在の関経連会長は住友電気工業会長の松本正義氏であり、前会長が関電の森氏だ。関西経済界には「次の関経連会長は関電から」という共通認識があり、2017年に就いた松本氏の在任期間を考えると、大阪・関西万博を関電出身の関経連会長で迎える青写真も関電の一部で語られていたという。その候補が八木氏であり、岩根氏だったのだ。
しかし、今回の提訴によって、その芽が完全に潰れた。加えて、2019年10月に金品受領問題で引責辞任した八木氏の後に会長に就くのは、東レの社長や会長を歴任して経団連会長を務めた榊原定征氏であり、経団連会長経験者が関経連会長に就くとは考えにくい。森本社長は2020年3月に就いたばかりで、まずは関電内部のガバナンスやコンプライアンスの立て直しが急務だ。
何より社長経験者が関与して社会を揺るがす不祥事を起こした関電にとって、公共性が極めて高い関経連会長に数年内に復帰することは相当ハードルが高い。不祥事の次元は異なるが、JR西日本は福知山線脱線事故(2005年4月)を起こすまで関経連に副会長を出していたものの、事故翌月の再任を辞退した後、再び副会長を送り出すには2017年を待たねばならなかった。
関電が元取締役に起こした訴訟以外にも、被告に現経営陣も含めた株主代表訴訟も起こされており、金品受領問題が関電に残した傷は深い。関西経済は「コロナ前」に消費を盛り上げていた訪日外国人の回復も見通せず、経済低迷期に再び戻る懸念も指摘されている。関西経済界をリードする役割を担ってきた関電が当面表舞台に立てない損失は、関西全体にとっても決して小さくはない。