世論調査をめぐり、フジテレビと産経新聞の再委託先による架空回答が明らかになり、メディア全体への不信感が広がっている。ツイッターには「世論調査って外注だったんだ」と驚く声も見受けられる。
新聞社による電話世論調査の場合、結果を報じる記事に調査を実際に担当する調査会社を明記するメディアもあれば、あくまでその新聞社が実施した、とする記載しか記事に登場しない社もある。産経新聞の世論調査結果の記事でも明記していなかった。J-CASTニュースが、識者や世論調査関係団体に話を聞いたところ、調査実施会社の「記事への明記」の必要性を指摘する声があがった。
一部で、実際には電話アンケート調査を行っていないのに架空回答
フジテレビと産経新聞が世論調査の再委託先による架空回答を発表した翌日(2020年6月20日)付の朝刊(東京最終版)で、朝日新聞は「『メディアの存在問われる』」と見出しを立て第2社会面で報じた。本文では「(今回の不正をうけ)メディア全体への不信が広がるとの懸念の声が上がっている」と指摘。ツイッターでも架空回答に対し、「もう世論調査は信用出来ません」「既存メディアを信用していないが、ますます信用が落ちましたね!」といった声が出ていた。
フジと産経の19日の発表などによると、FNN(フジ系局ネットワーク)と産経新聞の合同世論調査で、業務委託先による一部データ不正入力があった。実際には電話アンケート調査を行っていないのに、架空回答を入力していた。世論調査の委託先を19年5月から「アダムスコミュニケーション」(東京都)に変更、アダムス社が一部を再委託した「日本テレネット」(京都市)が不正を行っていた。不正は14回で計約2500サンプルが発覚し、フジと産経はそれぞれ、関係する世論調査の報道・記事を取り消し、「お詫び」した。
今回の架空回答案件(事実関係確認)の窓口であるフジテレビ企業広報室によると、アダムス社が再委託を行う場合は書面による確認を行うことになっていたが、実行されておらず、フジ・産経両社は日本テレネットへの再委託は「知らなかった」という。
産経新聞の最近の世論調査記事(5月12日付朝刊、取り消し対象)を確認すると、「アダムスコミュニケーション」の名前は登場せず、調査の委託事体への言及もない。1面記事に「産経新聞社とFNNは9、10日両日に合同世論調査を実施した」とあり、関係記事や「主な質問」などが載る5面をみても、1面と同じ様な表現で、「世論調査の方法」欄にも調査の委託や実施会社への言及はない。6月2日付朝刊の世論調査記事も同様だった。
他の新聞社は、最近の(電話)世論調査記事でどういう対応をしているのか。
「委託先」明記の対応に違い
日本経済新聞の6月8日付朝刊では、記事冒頭は「日本経済新聞社とテレビ東京が5~7日に実施した世論調査で(略)」とあるが、記事末尾では「調査は日経リサーチが(略)実施し」と、調査実施会社の記載があった。日経リサーチは日本経済新聞のグループ会社。
また、毎日新聞(6月21日付朝刊)は「毎日新聞と社会調査研究センターは20日、全国世論調査を実施した」と記載した。「社会調査研究センター」は、毎日新聞や埼玉大学社会調査研究センターなどが4月に共同で設立した世論調査会社で、所在地はさいたま市の埼玉大学内にある「大学発ベンチャー」だ。また別記事では、20年4月までは「フジ・産経の委託先とは別の調査会社に実務を委託していました。そこから下請けへの再委託はしていません」とも説明している。
上記2社は委託先の社名記載があったが、いずれも「身内」の関係会社だった。
一方、朝日新聞(6月23日付朝刊)は「朝日新聞社は20、21日に全国世論調査(電話)を実施した」と記載。別ページの「質問と回答」をみても、「(略)調査員が電話をかける~(略)」などとあるだけで、調査の委託や実施会社への言及はなかった。
ただ、自社世論調査の記事とは別の「フジ・産経再委託先の架空回答」関連記事(6月20日付朝刊)では、「朝日新聞社の調査方法」を説明する記事があり、「朝日新聞社が実施している電話世論調査では、フジテレビ、産経新聞とは別の調査会社に実務を委託しています」と、社名は挙げないながらも委託の事実に触れている。他にも、世論調査業務の現状を伝える過去記事(3月21日夕刊)に「朝日新聞が全国世論調査を委託した調査会社のコールセンターで(略)」といった記載が見受けられる。
「社員の立ち合い」の有無
読売新聞の世論調査記事(6月8日付朝刊)でも「読売新聞社は(略)全国世論調査を実施した」とあり、関連記事面や別面の「質問と回答」をみても他に特段の記載はない。また、フジ・産経関連の記事(20日付朝刊)では、朝日や毎日のように自社の調査方法を説明する内容は見当たらなかった。読売新聞に確認したところ、読売新聞グループ本社の広報部は25日、
「電話世論調査は、読売新聞社が指定した仕様やルールに基づき調査会社に委託して実施しており、質問のやり取りに関する調査員向けのマニュアルは読売新聞社が作成し、定期的に読売新聞社の社員を調査にも立ち会わせるなどして、不正防止に努めています。なお、委託先の調査会社は、フジテレビ・産経新聞社の委託会社とは異なります」
と回答した。
上記回答にある「委託先での調査への社員立ち合い」については、毎日と朝日も先に挙げた記事の中で、「社員が調査会場に出向いて」(朝日)などと言及している。一方、フジテレビ企業広報室によると(回答は24日)、「全て委託していた」と社員の立ち合いは行っていなかったと説明している。
今回のフジ・産経問題をうけ、メディアによる世論調査への信用回復に向けた有効な対策はあるのか。世論調査関係者や識者に聞いた。
調査実施会社を明記する必要性は?
日本世論調査協会の小林康有事務局長は、協会は学術的な目的で集っており、規制団体のような性質をもつ組織ではないとしつつ、今回のフジ・産経事案をうけ、調査の品質をある程度保証する枠組みのようなものが必要になってくるのではないか、と指摘した。
同協会サイトをみると、読売、朝日、毎日新聞、TBSテレビといったメディアや日経リサーチなどの調査会社の名前が「会員」として記載されているが、フジテレビと産経新聞は入っていない。とはいえ、今回の不正事案は他人事で済ませてよい話ではないと捉えており、たとえば、世論調査記事への調査実施会社の明記も「前向きに考えた方がよい」という。
協会の倫理綱領「実践規程」には、「調査報告書には、次の事項を明記しなければならない」とする項目の中に、「調査の依頼者と実施者の名称」とある。この規程の「調査報告書」と、世論調査結果を受けたメディアの記事とは全く別物で直接の関係はないものの、読者からの信頼感や、調査実施会社の責任感・自覚を考慮に入れると、「記事への調査会社明記」は検討に価すると述べた。
埼玉大学社会調査研究センター長の松本正生教授にも話を聞いた。松本教授は『「世論調査」のゆくえ』などの著書があり、先に毎日新聞関連で触れた、「社会調査研究センター」社の社長でもある。今回のフジ・産経事案をうけ、朝日新聞や東京新聞などからもコメントを求められていた。
メディアによる世論調査全般への信頼回復については、「大切なのは2点ある」として、
(1) メディア側による、委託先の会社へのモニタリング(監視、検査)の徹底。
(2) モニタリングも、単に「社員が現場へ出向く」という程度では不十分だ。世論調査に関して詳しくて「眼力」があり、データを見て仮に不自然な点があればすぐに分かるような専門的な知識をもった担当者が、継続的に関わる必要がある。
と指摘した。
また、「記事への調査会社明記」については、「明記すべきだ」との考えを示した。データの権利関係上の話なら明記する必要はない、という主張は理解できるが、不正に対する「抑止力にもなる」という観点からも明記するのが望ましく、(明記していない社もある)メディア側の対応は「今後変わってくるのではないか」とみている。
フジ・産経両社は再発防止策を検討しており、対応策がまとまるまで世論調査を当面休止するとしている。どのような具体的な方策を示せるか、注目が集まる。