政治と国民、政治の中でも「対話」が欠けている――そんな問題意識を、民主党政権の運営に関わった3人が大学のオンライン講義でぶつけあった。
講義は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の総合政策学部で松井孝治教授が開講している「現代政治論」の一環で、2020年6月16日に劇作家の平田オリザ氏と衆院議員の細野豪志氏とをオンラインで結んで行われた。
「対話」が欠けている象徴として取り上げられたのが、6月17日に閉会した通常国会では1回も行われないままだった党首討論だ。12年には衆院解散の引き金にもなった党首討論だったが、17~19年の3年で開かれたのは、わずか3回。18年には与野党双方から「歴史的な使命は終わってしまった」といった言葉が出るなど、形骸化しているのが実情だ。どうすれば政治に「対話」は取り戻せるのか。
民主党政権の中枢を見た3人
松井氏は12年間にわたって民主党の参院議員を務め、官房副長官として鳩山政権に仕えた。平田氏は内閣官房参与として鳩山氏のスピーチライターを務め、松井氏との共著「総理の原稿――新しい政治の言葉を模索した266日」(岩波書店)でも知られる。細野氏は民主党政権で環境相などを歴任し、今は自民党の衆院会派「自由民主党・無所属の会」に所属する。
平田氏の定義によると、「会話」(conversation)は「親しい人どうしでのおしゃべり」なのに対して、「対話」(dialog)は「知らない人との情報の交換。知っている人どうしでも、価値観が異なる時のすり合わせ」。この文脈を踏まえる形で、細野氏は、
「この10年ぐらいで政治との距離が広がっている。政治に対するシンパシー(共感すること)もないが、エンパシー(他者の感情を理解、共有すること)がなくなってきている気がして...」
などと危機感を語った。さらに、「国民と政治」の関係が損なわれている背景には、「霞が関と政治」「与党と野党」の関係悪化があるとみる。
「すべての問題について国民がすべて理解するというのは難しい。(国民が政治に対して向ける)『こいつらに任せて大丈夫なのか』とか『こいつらはちゃんとやっているのか』ということに対する信頼が、異常に今、損なわれてしまっていると感じる。その具体的な姿として、多分皆さんが見ているのが、霞が関と政治の関係、与党と野党との関係。いずれも、少なくとも私が20年見ている中で言うと、最悪の状況にある」