新規感染者ゼロを56日間守り続けてきた中国の北京で、再び新型コロナウイルスの感染者が確認された。2020年6月11日から16日までの5日間で106例の感染があり、市内9区に拡大している。16日には、朝陽区、豊台区、門頭溝区、大興区の4つの区で「戦時状態」に入ったと発表された。
北京市は16日深夜、首都空港と大興空港から各省への航空路線の就航を見合わせるか、一時的に停止すると発表した。それに伴って、北京と一部の省を結ぶ長距離バス路線も営業を中止した。さらに、地下鉄やバスの本数も急速に減少し、住宅団地は封鎖され、学校などの公共施設の使用も停止された。
卸売市場のまな板からウイルス
約20万人に対するローラー作戦による徹底調査が実施されているが、感染を抑え込めなかったことで、北京市のある副区長など4名のリーダーが免職処分を受けている。
実は北京市は6月6日午前零時に「突発的な公衆衛生事件」への緊急対応レベルを2級から3級に緩和したばかりだった。それからわずか5日後の11日、このような緊急事態が発生したため再び2級に戻した。
新型コロナウイルスの流行以降、感染状況について信頼できる情報を発信している上海市復旦大学付属華山病院感染科の張文宏部長は、今回の事態について、中国中央テレビ(CCTV)の取材に対して、北京は良いニュースと悪いニュースの両方をもたらしたと見ている。
「良いニュースは、全ての病例がいずれも『新発地卸売市場』に関係しており、感染経路の分からない病例がないため、ウイルス拡散の初期から抑制対策が講じられることだ。現在の処置の意気込みと速度からすると、今回の新型コロナは制御可能だ」
張部長は続けて言った。
「悪いニュースとしては、新発地市場の荷物取扱量は驚くべきものであり、今後新たな大流行が起きるのか、今はまだ分からないことだ」
2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)は、小さなタヌキに由来するといわれる。2020年1月には、武漢での新型コロナに関する調査で、地元のウイルス研究所は、ウイルスがまずコウモリの体に宿って、その後、人に感染するという研究論文を公表している。
そして今回、北京に襲来する新型コロナは、真偽不明ながら、ヨーロッパから輸入されてきた三文(サーモン)に関係すると噂されている。
「陸(タヌキ)、空(コウモリ)の後、海(サーモン)からも奇襲してきたか」
北京市民はまじめに噂を流している。
日本料理店も最大の苦境
北京市内には数百店の日本料理店があり、たいていの客は日本料理といえば生のサーモンを思い浮かべる。
ある日本料理店の店長はこう言った。
「新型コロナが猛威を振るっていた2月、3月でも、我々は店を閉じず、客がよく来てくれた。しかし、今回の海からの奇襲で1日に来るお客さんは一人だけであり、ほんとうに困ってしまった」
新発地卸売市場ではサーモンを処理するまな板からウイルスを検出したが、サーモンによってウイルスが感染することはないと、6月16日に北京衛生検疫所は発表を2回も出したが、サーモンを敬遠する動きは止まらなかった。2月から6月中旬までは、なんとかしのいできた北京の日本料理店は今、たいへんな苦境にある。
2020年に中国、そして世界経済が回復するかどうかについて話すのは恐らく時期尚早だろう。新型コロナウイルスの予防対策の常態化が経済に与えるダメージは持続的なものであり、永久に続く可能性さえある。
国際通貨基金(IMF)が6月9日に厳粛な警告を発した。IMFは世界経済の回復速度が予想よりも遅く、深刻な傷跡を残すかもしれないとした。6月24日に発表される世界経済予測では、IMFが成長予測をさらに下方修正する可能性が極めて高い。
6月15日、中国が公表した5月の経済データもこの見方を実証している。事実上、4月の経済データは、市場のリバウンドの速度が弱まっており、経済における憂鬱な要素が増えていることを示していた。そして、5月には回復速度の低下がより顕著になった。
国家統計局が自己分析した経済回復の三大不確定要素とは、まず、製品価格の回復を示す動きが弱まっており、41業界中、25業界で成長が低下するか、拡大の幅が狭まり、製品の増加にも前月よりも落ちていることだ。
二つ目に、消費が失速したことであり、個人消費の成長は前月の0.7%から0.6%に下がり、アパレルや家具、文化、教育、工芸、美術、皮革製品などの業界における下落率は5.0%−11.4%の間だった。
三つ目は製造業への注文の減少であり、工業輸出額は増加から減少に転じ、前年比で1.4%下落した。
第2四半期(4−6月期)の中国のGDP成長率はマイナスからプラスに転じることができるのか。数日前のメディアでは楽観視されていたが、北京の現状をみると、とてもそうとは言い難い。
感染者ゼロという目標を求め続けてきた北京は、これから正念場を迎える。
(在北京ジャーナリスト 陳言)