東京や京都で映画館を運営する「アップリンク」の元従業員らがパワハラを受けたとして提訴し、会見を開いたことを受け、同社は浅井隆社長名でサイト上に謝罪文を出した。
そこで、不適切な言動があったと認めたが、原告側からは対応について不満の声も出ている。同社では、詳細なコメントは今週中に発表すると説明している。
日常的な暴言や長時間労働に、「涙が抑えられなくなった」
「精神疾患者を雇った俺がおかしかった」。2019年1月から10か月ほどいたという元アルバイトは、浅井社長からこう言われたという。容姿のことを言われたり、家庭内の詮索もされたり――原告側が立ち上げたサイトでは、こう訴えている。
アップリンクは、差別などを取り上げたインディーズ作品を取り上げるミニシアターの運営を手がけ、そのことに憧れて入社しただけに失望も大きかったという。
訴えたのは、20~30代の元正社員や契約社員、アルバイトで、浅井社長らからパワハラを受けたとして、計760万円の損害賠償支払いを求める訴訟を2020年6月16日に東京地裁に起こした。
原告サイトによると、4年間働いた元正社員は、浅井社長からの相次ぐ暴言で心身に不調を来たした。そして、19年8月、正社員から有期雇用契約に正当な理由なく変更すると告げられ、「条件を飲めないなら辞めてもらうしかない」と言われて退職に追い込まれた。また、18年2月から2年間働いた別の元正社員は、夏休みや年末年始の休みが消え、終電で帰ったり、仕事を家に持ち帰ったりしたが、残業代は支払われなかったという。相談した浅井社長からは、「議論する余地はない。会社に残るか去るか」と言われたといい、「次第に通勤の途中で足がすくみ電車を降りる事が増え、業務時間中に涙が抑えられなくなることもありました」と告白した。
「本当に謝罪するなら、世間に言う前に当事者に伝えるべきでは」
これに対し、アップリンクは、16日夜になって、「元従業員からの訴訟について」と題したお知らせをサイト上に出した。
元従業員らから訴訟を起こされたことについて、「真摯に受け止めております」としたうえで、「不適切な言動があったことを深く反省し、謝罪致します。本件の解決に向けて、誠意をもって対応をして参ります」と述べた。
アップリンクとしても、パワハラなどの再発防止に努めるとしたうえで、「改めて詳細なコメントを発表します」と結んでいる。
こうした謝罪文について、原告代理人の馬奈木厳太郎弁護士は6月17日、J-CASTニュースの取材にこう話した。
「型通りの文書の印象を受けますね。詳細なコメントは拝見していませんので、評価する以前のことだと思います。早々と文書を出さざるをえない状況の認識ですから、大きいところでは争いがないはずです。原告側に書面などをいただいておらず、本当に謝罪するなら、世間に言う前に当事者に伝えるべきでは」
原告側は16日、被害者の会を立ち上げ、17日昼過ぎまでに自らの体験談などがメールで数十件も寄せられているという。
賛同者も募っており、映画監督の深田晃司氏らがツイッターなどでその意を示した。深田氏らが立ち上げた「ミニシアター・エイド基金」は17日、クラウドファンディングで集めた支援金3億円余の一部をアップリンクにも分配するものの、パワハラは許容できないと公式サイトで説明した。
このクラウドファンディングは、コロナ禍で苦境に立つミニシアターを緊急支援するのが目的で、浅井社長も、運営する映画館の一時休業を受けてツイッターなどで映画を見に来てなどと呼びかけていた。
アップリンクの宣伝部は17日、「今週中に浅井の方から詳細なコメントを出す予定ですので、現時点で話ができることはありません」と取材に答えた。原告側へのコンタクトも取っていないといい、浅井社長の辞任や関係者の処分があるかについても何とも言えないとしている。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)