新型コロナウイルスのスマートフォン向け「接触確認アプリ」が、今週中にも提供開始される。
Bluetooth(ブルートゥース)による無線通信を利用し、陽性者と接触した可能性を通知するもので、保健所のサポートを早く受けられるという。基盤となるのはアップルとグーグルの共同開発によるシステムで、同じ仕組みを用いたアプリが世界各国で提供されている。
では、どうやって使うのか、問題点はどこか。提供前に公表されている範囲での情報をまとめる。
おおむね「1メートル以内で15分以上」を検知
日本版アプリの仕様は、公開前の2020年6月12日時点のものが、厚生労働省公式サイトに掲載されている。「App Store」(iPhoneなど)もしくは「Google Play」(Android)からアプリをインストールし、利用規約に同意の上、Bluetoothをオンにすると利用できる。
他のスマホとの近接(おおむね1メートル以内で15分以上)を検知し、陽性者と過去14日間に近接の可能性があった場合には、スマホに通知が届く(1日1回)。通知後は症状を選択し、画面の指示に従い、受診案内などを受ける流れだ。
利用にあたっては、アプリ上に氏名や電話番号などの個人情報を入れる必要はなく、GPSなどの位置情報も使わない。また近接に関するデータは、サーバーには上げられず、本人のスマホ内にのみ暗号化して記録され、14日経過後に自動的に無効となる。諸外国と比較しても、プライバシーに配慮された仕様となっている。
「普及率6割」高いハードル
「濃厚接触」に気付くきっかけとなる有用なアプリだが、利用者が少なければ絵に描いた餅になってしまう。安倍晋三首相は5月25日、緊急事態宣言解除の会見で、人口の6割近くにアプリが普及し、濃厚接触者の早期隔離につなげられれば、ロックダウン(都市封鎖)を避けられるとの、オックスフォード大学の試算を紹介した。
それでは、どう普及させるのか。テレビCMで告知するにしても、さすがにQRコードを大写しにして、「いますぐ、これを読み取って下さい!」と呼びかけるわけには行かない。待ち構えてもない限り、15秒でカメラを起動し、コードを読み取るのは至難の業だ。
心理的ハードルもある。先述したようにプライバシーには一定の配慮がされているが、近接データも個人情報であることには変わりない。「官製アプリ」での管理に拒否反応を覚える層も、一定数でてくるだろう。普及率6割までの道のりは長い。
無事インストールできても、有効活用されるかは、また別の話だ。陽性確認のアプリ登録は、受診者みずから手動で行うようになっており、また義務ではない。さすがに「面倒だから」と無視する人は少ないだろうが、重症でそれどころではなく、登録を後回しにする感染者は考えられる。
新システムで混乱は起きないか
接触通知の根幹にあるのは、新たに始まった「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」(HER-SYS)だ。厚労省サイト上の各種資料によると、これまで使われてきた国立感染症研究所の「感染症サーベイランスシステム」(NESID)に代わって、新型コロナの感染者情報を管理するもので、ファクス送信が前提だった発生届の提出が、オンラインで可能になるなどの利点がある。
保健所では今後、PCR検査などの際にHER-SYSへ受診者の電話番号やメールアドレスを登録。陽性と判明した場合、受診者が登録・通知に同意した上で、保健所からHER-SYS経由で送られた「処理番号」をアプリに入力すると、近接者に通知が行く。これにより「なりすまし」の防止を図っている。
HER-SYSは5月15日に一部自治体で試験導入され、29日から順次利用開始。加藤勝信厚労相は6月9日の会見で、対象となる155の保健所設置自治体のうち、8日時点で手続終了が144件、手続中が7件、申請待ちが4件と報告している。
新たなシステムの導入時には、混乱や障害が起きる可能性もあわせて考える必要がある。4年以上の運用実績を持つマイナンバーでさえ、5月開始の特別定額給付金(一律10万円)によって、自治体窓口への負担増などの問題点が浮き彫りになった。利用者・保健所双方の混乱が起きないよう、迅速かつ着実な運用が求められる。
(J-CASTニュース編集部 城戸譲)