メガバンクやNTTグループなど9事業者が参加して2020年6月に発足した「勉強会」が波紋を広げている。「日本におけるデジタル通貨の決済インフラを検討する」と銘打っているが、かつて「大物」と呼ばれた元財務次官が絡んでおり、法定通貨である「円」をデジタル通貨へ移行させる狙いがあるのではないか、と憶測を呼んでいるからだ。
9事業者には、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3メガバンクがそろい、IT関連ではNTTグループとKDDI、インターネットイニシアティブ(IIJ)が加わる。JR東日本、セブン銀行、森・濱田松本法律事務所も名を連ねる。異色なのはオブザーバーとして、国の機関である金融庁、財務省、総務省、経済産業省、日本銀行が参加することだ。勉強会の座長には、日銀で決済機構局長を務めた山岡浩巳氏が就いた。
大企業がずらり
勉強会を呼び掛けたのは、ディーカレットという一般的にはあまり知られていない企業だ。事業内容はデジタル通貨の取引・決算を担う金融サービスで、IIJの関連会社として位置付けられているが、株主には三菱UFJ銀行や三井住友銀行、JR東日本のほか、大手生損保、伊藤忠商事、電通グループなど大企業がずらりとそろう。
今回の勉強会設立の陰に見え隠れするのは、2010年から12年にかけて財務次官を務めた勝栄二郎氏の存在だ。財務省では本流の主計官、主計局次長、官房長、主計局長を歴任し、通常は1年で交代する次官を2年務めた。退官後は財務次官経験者の指定席となっている政府系金融機関などに天下りをするのではなく、13年に上場企業であるIIJの社長に就いて政財界を驚かせた。ディーカレットの非常勤取締役も務めている。勉強会の参加企業やオブザーバーの顔ぶれを集めることができたのも、勝氏の経歴や人脈ゆえではないかとささやかれている。
デジタル通貨としての法定通貨「円」構想に言及する報道も
勉強会は2020年9月まで月1、2回のペースで会合を開き、デジタル通貨やデジタル決済インフラを巡る課題とその解決方法について議論を進め、サービスやインフラの標準化に関する方向性を示すことを目指すとしている。背景にあるのは、デジタル通貨やデジタル決済の規格の乱立だ。例えばメガバンクでは、みずほ銀行がデジタル通貨「Jコインペイ」を展開し、三菱UFJ銀行も別のデジタル通貨の発行を計画している。JR東日本は電子マネー「Suica(スイカ)」を発行しており、勉強会に参加していない通信系や流通系、IT系などの企業がそれぞれ独自の規格で電子マネーやデジタル決済サービスを展開している。このままでは乱立が発展の阻害要因となりかねず、特に取り組みが遅れているメガバンク系にとって、鉄道利用者を中心に約8000万枚を発行するスイカとの連携は、てこ入れ策にもなりえる。
ただ、この勉強会を巡っては、オブザーバーに日銀や財務省が加わっている点に絡めて、デジタル通貨として法定通貨「円」を発行する構想に言及する報道があり、単なる民間同士の規格標準化に終わらないのでは、との見方もある。中国は中央銀行による「デジタル人民元」の発行を目指しており、具体的な発行計画はないものの日銀も海外の中央銀行とデジタル通貨に関する共同研究をしている。先行報道が先走りすぎたのか、参加企業からは勉強会と距離を置く声も早速漏れているが、今後の日本でのデジタル通貨を巡る動きの中核として引き続き注目を集めそうだ。