藤原さんが体験したトランプ大統領当選時の出来事
幼少時をニューヨーク近郊のニュージャージー州で過ごした藤原さんは、見知らぬおじさんから、「トージョー」と呼びかけられた経験を今でも忘れることができない。第二次大戦で対戦した日本人への偏見が、まだ日常的に色濃い時代だった。
だが95年から翌年にかけ、ウッドロー・ウィルソン国際学術センターに研究員として勤務し、メリーランド州に住んだ時は、様々な国籍の児童が集う公立小学校で学んだ娘さんが差別や偏見にさらされることもなく、米国は変わったかもしれないと実感した。08年にオバマ氏が大統領に当選した時、共和党を支持する旧知の白人政治学者が、「涙が出て仕様がない」と漏らすのを聞いたときにも、その感は深まった。
だが、トランプ氏が大統領に当選した2016年、カリフォルニア州バークレーで講義をしていた藤原さんは、アメリカ人学生の反応の違いに驚いた。白人学生は、米国初の女性大統領が不発に終わったことに落胆を隠せずにいた。ヒスパニックらマイノリティーの学生は、驚きはしなかったが、恐怖の表情を浮かべていた。
アメリカ社会に深い人種差別が潜むことを知らない政治家はいない。しかしそれを公言し、あからさまに公の場で煽る人物がトップの座に就くことの怖さを、彼らは感じていたのだった。