約800年続く冷泉家。歌人・藤原定家の流れをくみ、和歌関係を中心に貴重な文化財を多く所蔵する同家では、所有する文化財を保存するための土蔵を再建するための資金を2020年6月9日からクラウドファンディング(CF)で募ったところ、1日で目標額350万円を突破し、10日20時時点で合計500万円以上に達している。
「土蔵」では助成金が得られず
冷泉家では鎌倉時代以後、文書・装束・調度品等様々な文化財を保有してきた。それらは江戸時代に建てられた8棟の土蔵に保管してあったが、うち3棟が戦後に劣化してきたため、仮設のプレハブ倉庫に保管していた。そのプレハブ倉庫が2018年の台風21号で被災し破損、雨ざらしになった時もあった。急造の木造倉庫と外部の倉庫に分けて保管していたが、2年を経た今なぜ土蔵の再建を決めたのか。
6月10日に当主夫人で、公益財団法人・冷泉家時雨亭文庫常務理事・事務局長を務める冷泉貴実子さんに取材すると、文化財を保存する土蔵の再建は冷泉家が長年考えていたことだった。台風による被災をきっかけに、本格的に新しい土蔵を建てたいと考えた。しかし、費用面でハードルが生じる。文化庁から建設のための助成金を得るには、耐震性・耐火性を鑑みて鉄筋コンクリート造りであることが条件だった。貴実子さんは土蔵のメリットを強調する。
「鉄筋コンクリートでもほとんどは100年ももたず、60~70年程で建て替えなければなりません。エアコンによる空調も倉庫内では温度・湿度は不均一という問題があります。強制的に換気をするのではなく、緩く温度・湿度を調整できる日本式の土蔵の方がいいと考えました。実際に冷泉家の土蔵は江戸時代から400年続いていますから、土蔵での保存には自信を持っています。
それに、もし地震で被害を受けてもモノは桐箱で保管されていますので、収蔵品にダメージがなければよいのですから」(冷泉貴実子さん)
冷泉家の収蔵品には、重要文化財指定を見込んでいる(貴実子さん)という、日光例幣使(江戸時代、日光東照宮に朝廷が派遣した勅使)の道具類や、まだ学術調査が進んでいない室町~江戸時代の文化財もある。台風による被災後、文化庁と長く交渉を続けだが助成金は得られず、冷泉家への寄付とCFでの資金調達を決断し、京都新聞と電通が運営する京都にまつわるCFプラットフォーム「THE KYOTO Crowdfunding」上で資金を募ると、1日で目標額を突破した。土蔵は今年中に着工予定だという。