納豆ご飯「生涯無料パス」没収された3人が語る顛末と、運営会社社長の言い分 1万円CFめぐるトラブルを記者が追った

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   クラウドファンディング(CF)で納豆ご飯専門店「令和納豆」に1万円を支援して受け取ったリターンが「生涯無料パスポート」をうたっているにもかかわらず一方的に没収された、という口コミがインターネット上で拡散している騒動で、同店は2020年6月1日、没収した事実を認めたうえで、利用規約に基づいた正当な処置だったとする声明を発表した。この口コミを書いた人物以外にも没収した例はあるとし、その原因となった行為を例示している。

   だが、実際に同パスを没収された複数の元所有者はJ-CASTニュースの取材に、例示されたような行為は「していません」と即答する。没収の理由として店側から言われたのは「無料パス対象セットしか注文していないから」「アンケートへの回答が不誠実だったから」といったもの。一体どのような経緯で生涯無料パスは没収されたのか。店の対応は法的に正当だったのか。元所有者3人と、店舗を運営する株式会社納豆の社長に話を聞き、弁護士、CFサイトの運営会社に見解を聞いた。

  • 生涯無料パスポートの対象セット「納豆ご飯定食(梅コース)」(納豆社がCFを募った2019年のリリースより)
    生涯無料パスポートの対象セット「納豆ご飯定食(梅コース)」(納豆社がCFを募った2019年のリリースより)
  • 令和納豆の6月1日付声明
    令和納豆の6月1日付声明
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  • 令和納豆の6月1日付声明

1000人以上が生涯無料パスに支援

   納豆ご飯専門店「令和納豆」は納豆(本社・水戸市、以下「納豆社」)が2019年7月に設立。開店前の19年4~6月にCAMPFIRE(本社・東京都渋谷区)が運営するCFサイト「FAAVO(ファーボ)」で支援(寄付)を募り、目標300万円の4倍となる1200万円超が集まった。

   CFのリターン(お返し)の目玉だったのが、1万円(税込)の支援で得られる「納豆ご飯セット一生涯無料パスポート」(以下、生涯無料パスもしくは無料パス)。600円(税別)の定食「梅コース」を文字通り一生涯無料で食べられる。CFのページによると、本人のみ有効、1日1回限り、譲渡禁止といった条件が書かれている。支援者総数1228人のうち、1099人が無料パスに支援している。

   Googleに投稿された1件の口コミがネットで注目されたのは20年5月22日ごろ。1万円を支援して無料パスを受け取ったが、15回ほど利用したところで、店員に一方的に同パスを没収されたという。理由は規約違反。「毎回、無料の納豆定食しか頼んでいない」「メールでのアンケートの回答が不誠実」という2点から、「規約にある『当店と会員の信頼関係が損なわれたと認めた場合』に該当する」と判断された。「詐欺まがいの店に怒りを感じています」と心中を明かしている。

   令和納豆は5月23日、ツイッターでこの口コミに言及。「結論といたしまして、今後の無料パスポートのご利用に関しましては、今までと変わらず通常通りご利用いただくことが可能ですので、ご安心ください」としたが、本当に無料パスを没収したかどうかについては「事実確認は引き続き行っておりますので、順次ご報告させていただきます」としていた。

   J-CASTニュースが5月29日にこうした経緯を記事化すると、令和納豆は6月1日、納豆社の宮下裕任社長名義で書かれた「無料パスポートの権利失効に関する一部報道につきまして」と題する声明を店舗ウェブサイトで発表した。「当店で当時対応した従業員に事実確認を行いました」という。

初回利用時「当店が制定した利用規約をご説明」

   声明によると、令和納豆の生涯無料パスは「クラウドファンディングの思想と法律に基づいた信頼関係の構築を重視」している。支援者には初回利用時、「当店が制定した利用規約をご説明差し上げ、同意いただけなかった場合はその場で返金、同意いただけた場合にクラウドファンディングのリターンである権利の有効化を行っておりました」と、支援の後で「利用規約」の存在を明かし、説明しているという。

   その利用規約では信義誠実の原則に則り、「当店の運営を妨害或いは当店の信頼を毀損するような行為」「入会手続きを含めた当店が行う全てのアンケートに対し虚偽の回答を行う行為」「その他当店が当該会員の行為として不適切であると認めた行為」などを禁止。話題になった口コミの人物について「利用規約に同意をいただいておりました」というが、

「ご来店の度に従業員の配席案内に従っていただけなかったり、ご注文の順番をお守りいただけなかったり、アンケートへの不誠実な対応をされたり、信義誠実の原則上の注意事項に違反する行為が多くございました。その都度お声がけをさせていただいたものの、残念ながらご理解を得ることができませんでした」

と、没収の原因となった行為を記した。

   この口コミの件以外にも、次のような支援者に対しては「当店が目指す生涯のお付き合いをするための信頼関係の構築が難しいと判断し、従業員から利用規約に基づき理由を伝え、パスポートの権利の失効を行わせていただきました」という。

・従業員に対して罵声を浴びせ、退店時に当店の看板を破損させ、当店に損害を与えた方。
・従業員を罵ったことで、複数のお客様が退店され、当店に損害を与えた方。
・入店時の列や会計待ちの列に強引な割り込みをし、他のお客様に不利益を与えた方。
など

   令和納豆は「一連の手続きに関しまして、所有者と当店の間で交わした利用規約に基づいた処置であり、インターネットやSNS上の記事に掲載されたような『詐欺行為』や『一方的な剥奪行為』に当たる内容ではないことを弁護士事務所にも確認しております」と、没収は正当に行ったことを強調。「今回の件にまつわるインターネットやSNS上での当店並びに個人に対する、事実とは異なる投稿、捏造、誹謗中傷、脅迫行為、事実誤認の記事を作成した個人・企業に関しましては、法的手段を検討して参ります」との方針を示した。

没収の理由は、無料パス対象メニュー以外を注文していないから

   一方、実際に生涯無料パスを没収されたという当事者3人にJ-CASTニュースが話を聞いたところ、その認識は令和納豆の声明と食い違う点がある。3人はいずれも関東圏に居住。インターネットで令和納豆のCFを知ると、店舗が仕事や生活の圏内にあるため便利そうだと、1万円を支援した。

   3人のうちAさんとBさんの2人は、無料パスが手元に届き、初めて店舗でパスを利用しようとした時に、令和納豆の声明にもあった「利用規約」が配布された。A4用紙4枚分程度の量で書かれている。

   Aさんは「『こちら利用規約です。読んでおいてください』といった形で渡されました」と話す。その後、無料パスを使って数か月間で十数回食事したところで、アンケートを送ると店員に案内され、追ってアンケートがメールで送られてきた。

   メールには「アンケートにご回答いただくまで無料パスポートはご利用できません」「アンケート内容に不備や不正があった場合は無料パスポートのご利用ができなくなります」と2つ留意点が書かれている。質問は、

・令和納豆をご利用いただいている理由(50文字以上400文字以下)
・地方創生・地域活性化に必要だと思うこと(同)
・インターネット上で令和納豆の事実無根の誹謗中傷をする人達の対策に関するアドバイス(同)
・梅コース以外のご飲食はお楽しみいただけておりますでしょうか(はい/いいえ)

など。50文字以上400文字以下で回答する記述式が8問ある。

   Aさんは、「アンケートに回答した次の店舗利用時に、無料パスを取り上げられたように思います」と話す。店員に伝えられた没収の理由は、「無料パス対象メニュー以外を注文していないから」。地域支援を目的にCFで支援してもらっているところ、無料メニューだけを食べ続けるのならば店の利益にならず、地域支援に貢献する意思がないとみなして権利を失効する、などと説明された。Aさんは「利用規約のどこにどう違反したかは聞いていません。アンケートにもちゃんと回答しました」という。

   声明に例示されていた失効の原因となる行為は「していません」とAさん。「店員を罵ったこともありません。私が入店中にトラブルを起こして他の客が退店したこともありません。看板破損ももちろんしていません。割り込みについてはそもそも入店時や会計時に列があるのを見たことがありません。私は普通に無料パスを提示して食事をしていただけです」とし、「正直自分だけが1万円を取られたのであれば別に何とも思いませんが、他にも同様の人がたくさんいるであろう状況は許せないです」と納得していない。

アンケートの回答が不誠実だった

   同じく生涯無料パスを没収されたBさんは、利用規約について「CF募集ページに書いてあった『1日1回』といったことは言われましたが、細かい規約内容を説明されたかどうかは覚えていません。少なくともその利用規約をもとに、こういう形で没収されるとは思っていませんでした」と取材に話す。

   「こういう形」というのは、やはり同パスで十数回食事した後、メールでアンケートが送られてきた。大半の質問に「しっかり回答しました」というものの、「地方創生・地域活性化に必要だと思うこと」の質問にはアイデアが出ず、スペースキーで字数を稼いだ。

   無料パスが没収されたのは、アンケート送信後の店舗利用時。店員から「信頼関係がなくなった。今後お付き合いしていくのは難しいと判断した」と伝えられた。

   その原因はAさん同様「生涯無料パス対象メニューしか利用してこなかった」ことに加え、「アンケートの回答が不誠実だった」こと。スペースキーで回答字数を稼いだことなどが「不誠実」とされ、「回答し直せばいいのか」と頼んでも聞き入れられなかった。他にも同パスを没収した人はいるかと聞くと、「十数名」いると答えたという。

   Bさんも、令和納豆の声明にあるような失効の原因となる行為は「していません。強いて言えばアンケートになるのだと思います」と話す。「信頼関係がなくなった」という判断が恣意的ではないかとし、「これがまかり通ってお咎めなしとなったら、やりたい放題にリターンを没収できてしまいます。本来CFは良い仕組みのはずなのに、新しく事業などを始めようとしている人にも『怪しいサービスなのではないか』と疑われかねません」と首を傾げる。

   取材に応じた3人のうちのもう1人、Cさんのケースはやや異なる。生涯無料パスは初回利用時に没収されたという。

   CFで1万円支援した後、無料パスは7月中に発送とされていたため、Cさんは19年7月10日の開業日に合わせて届くものだと思っていた。しかし、なかなか届かず、不審に思ったCさんは同28日ごろ、メールで「届きませんが詐欺なのですか?」などと令和納豆側に問い合わせた。

   Cさんによると同31日に無料パスは届いたが、その後初めて利用しようとしたところ、食事後に「規約違反」を理由に取り上げられた。「令和納豆に著しく害をなすおそれがある」「ネットにクレームを書き込むおそれがある」などと判断されたという。実際にネットに誹謗中傷などを書き込んではいなかった。

   先の問い合わせの文面が原因かとCさんは推測しているが、「そもそも利用規約を受け取っていない段階で、規約も何もないのではないですか」と腑に落ちない。一方、AさんやBさんと異なり、Cさんは没収時、CFの1万円を返金された。食事代もかからなかった。

「リターンの性質について充分明らかにしていなかった点は問題があると考えられます」

   J-CASTニュースが入手した令和納豆の利用規約とアンケート、発表されている同店の声明、前出の3人の話などをもとに、インターネット関係のトラブルや詐欺事件にも詳しい弁護士法人 天音総合法律事務所の正木絢生・代表弁護士に、法的観点から見解を伺った。まず利用規約やアンケートに関して、次のとおり述べている。

「無料パスについて、これを利用するためには利用規約に同意し、かつアンケートに回答すべきことを明らかにしていなかった点について、リターンの性質について充分明らかにしていなかった点は問題があると考えられます。

利用規約については、『ご利用にあたっては会員規約に同意いただく必要がございます』というような注記をすることが望ましいとは考えられますが、会員に無料パスポートの利用権を付与することが、永久に、無条件で利用を許諾することを意味するとまでは解せず、内容的にも少なくとも規定の文言上大きく問題があるものとはいえないので、法的に見て問題があるとまではいえないと考えられます。

他方、アンケートへの回答については、8項目で各50文字、累計では最低でも400文字と決して少なからぬ分量の記載を求められるうえ、その中には地方創生に必要と思うこと、利用規約に同意した理由、誹謗中傷対策のアドバイス等、飲食店ないし飲食サービスとは関係性の薄い項目も少なからず含まれています。

このように、質的にも量的にもCFのリターンの利用にあたって求められるとは考えづらい負担が利用開始の条件となる場合、リターンの性質・程度といった重要事項に関係するため、事前にその旨を明示しておくことが必要であったと考えられます」(正木弁護士)

「無料対象のメニューしか頼んでいなかった」ことは、規約違反?

   利用規約を説明したかどうかをめぐっては、「利用規約をご説明差し上げ......同意いただけた場合にCFのリターンである権利の有効化」としている令和納豆と、「『読んでおいてください』といった形で渡された」というAさんや、「細かい規約内容を説明されたかどうかは覚えていない」というBさんとの間に、やや食い違いがある。どの程度をもって「説明した」「同意した」と言えるのか。

「利用規約の説明について、一般的な用語法として、『読んでおいて』として利用規約を渡す行為を『説明した』とは言わないかと思います。

ただし、利用規約が有効というために必要なのは、利用者が同意すること(意思表示が合致すること)のみであり、業者が利用者に対して内容を説明することが必須とまではいえず、『読んでおいて』として利用規約を渡すだけであったとしても、法的問題があるとまではいえません。

また、利用規約への同意について、契約の成立にあたって特段の要式は必要とされませんので、署名や押印が必須というわけではなく、口頭で『同意します』と述べることでも同意は有効となります。契約の内容等によっては、署名・押印なしでは真に合意があったとは言えない可能性もありますが、本件はそのようなものとはいえないでしょう」(正木弁護士)

   そこで、令和納豆の利用規約にもとづいて一連の対応を見てみる。前出の3人が没収の原因として適示されたという事柄は、「規約違反」といえるものだったのか。

   規約10条は「本規約のいずれかの条項に違反した場合」などに権利の制限や抹消をすると規定。そして7条では、「会員の禁止事項」を定めている。正木弁護士は、AさんとBさんが指摘されたという「無料パス対象メニュー以外注文しなかった」ことについてこう述べる。

「そもそも本件サービス利用規約10条に本件サービスを停止しうる事情が記載されており、そのなかには規約のいずれかの条項に違反した場合とあり、7条には会員の禁止事項等が記載されています。しかし、『無料対象のメニューしか頼んでいなかった』ことについては、いかなる意味でも本件規約に違反するものとは言い難いでしょう」(正木弁護士)

スペースキー連打で文字数を埋める行為は、規約違反?

   令和納豆が声明でもあげていた「アンケートへの不誠実な対応」については、関係しそうな同規約7条の禁止事項の1つに「入会手続きを含めた当店が行う全てのアンケートに対し、虚偽の回答を行う行為」というものがある。「不誠実な対応」と「虚偽の回答」では意味が異なりそうではあるものの、同条項によって「アンケートへの不誠実な対応」を理由に規約違反とすることはできるか。

「令和納豆側のいうところの『不誠実な対応』の内実が解らない以上、何とも言い難い部分はありますが、基本的には『虚偽の回答』と『不誠実な対応』は異なるものと考えられます。

ただし、7条は禁止行為として『その他当店が不適切と認めた行為』も掲げているところ、この項目は字義通り令和納豆側が不適切と認めた行為があれば何でもいいというわけではなく、同条に列挙された他の事項に準ずるような事情がある場合を意味すると制限的に解釈されるべきではありますが、一部項目についてスペースキー連打で強引に文字数を埋める行為は、その程度等によっては実質的にみてアンケートに回答したとはいえないと評価しえ、利用規約7条の『その他当店が不適切と認めた行為』に該当する可能性はあります。

しかし、取材対象者の方(編注:Bさん)が答えられている通り『地方創生―』等、飲食店の支援とは関連性の薄い一部項目について、回答が思いつかなかったためにスペースキー連打で文字数を埋める行為が当然に利用規約7条にいうところの『その他当店が不適切と認めた行為』に該当するとは言えないと思われます」(正木弁護士)

規約を説明する前に規約違反とすることは可能?

   Cさんは先述のとおり、利用規約の内容を知らず説明も受けていない段階で、「規約違反」として無料パスを没収されたというが、令和納豆のこのような対応は可能なのか。

「令和納豆側が、『パスポートの没収』を、どのような根拠に基づいたどのような措置と位置付けているのか判然としない部分がありますが、利用規約2条によれば『当店が利用登録を相当でないと判断した場合』は利用登録を拒絶できるとあり、利用規約に関する同意がなされる以前であっても、例えば7条の禁止事項に該当するような行動等があった場合には利用登録を拒絶できるものと考えられます。

そして、利用登録がされない場合には無料パスポートの効力も生じないことになるので、パスポートの没収も可能になるかと思います。

ただし、本件においてパスポートの没収をされたという方(編注:Cさん)が語る通り、7月中に届くと記載されていたパスポートが、同月28日になっても届かないことについて『詐欺ではないか』と問い合わせたことを以て、令和納豆に著しい害を与えるものとも、令和納豆を中傷する内容をネット上で記載する蓋然性が高いともいえないと思われます。

したがって、利用規約違反等の事実も認められず、利用登録を拒絶できる理由もないため、令和納豆の対応は違法であり、その方は依然として無料パスポートを利用する権限がありますし、損害賠償等も求めうるとは思います。

ただし、業者がパスポートを没収した際に、CFした1万円について返金しており、それを受け取っている点について、CF契約を合意解除したと評価されうる余地があります」(正木弁護士)

納豆社社長に聞く

   納豆社の宮下裕任社長は6月5日、J-CASTニュースの取材に、生涯無料パス没収の経緯を明かした。まず利用規約は、各支援者の初回利用時に紙を渡して5~10分程度説明したとする。加えて「今後アンケートに回答する義務がある」こと、さらに「無料パス対象メニュー以外も食べてコメントしていただきたい」という旨もこの時点で説明し、「いいですよ」などと返事をもらって同意を得たうえで、無料パスの利用を開始したという。

   初回利用時に説明したことは認めているが、なぜCFの募集ページにこれらの条件があることを書かなかったのか。

「生涯のお付き合いなので、直接お会いした時にご説明すべきという考えからです。私たちにとって支援者は『お客様』というより『仲間』に近い認識です。たとえばウェブサイトに長文の利用規約を掲載する方法も考えられます。ただ一般に利用規約というのは、ネットでの手続きだとほとんど読まずに『同意する』にチェックを入れて送信する方が多いです。そうなるとトラブルの元になりかねません」(宮下氏)

   アンケートへの回答義務や、無料パス対象メニュー以外の注文義務は「利用規約には書いていません。利用しようと思う方が制限されてしまうからです」と明言。それでもこれらに反したことで没収した例があるのは、「お気持ちや信頼関係を重視しました」という。

「積み重ねです。今回の支援を『無料で定食を食べられる権利』としか思っていないような方がいます。無料対象の食事だけをして、スタッフが話しかけてもコミュニケーションを取っていただけない方がいます。私たちを飲食店スタッフとしか見ていないのでしょうか。ネットで『こんな不味い店に価値はない。返金だ。ダメなら裁判だ』と書いた方、『詐欺やってるんじゃない』とクレームした方もいました。

そのような方々には、CFの募集ページに書いた我々の思い、初回来店時に説明した『末長くお付き合いをしたい』という思いが伝わっておらず、『支援者』ではないだろうと思いました。ただ、もちろんコミュニケーションを取りたくない方もいらっしゃいますので、別のやり方はあったかもしれません。説明不足があれば申し訳ないと思っています」(宮下氏)

「アンケートがトドメとなり失効」

   だが、少なくともAさんとBさんとCさんは、店員への暴言やネットでの誹謗中傷や迷惑行為はしていないと話している。淡々と無料パスを提示して無料で食事を続けることはなぜ認められないのか。この点、宮下氏は「初回来店時にお伝えしたことです。『無料以外のメニューも食べてコメントを頂きたい』と伝えて同意されたのに、召し上がっていただけませんでした」と、初回来店時の同意に反したためだと繰り返した。

   アンケートは、無料対象メニューしか注文していなかった支援者のうち、口頭でのコミュニケーションも取れていなかった人を対象に送信したという。その回答が、無料パス没収の最終的な原因となったケースもある。

「アンケートでは本音を聞きたかったのですが、『残念なことばかり』などと書いて句読点などで字数を稼ぐ、必須項目に回答がない、利用規約への質問に『覚えてない』と回答するといった方々がおり、もうコミュニケーションが取れないと判断しました。『アンケートへの不誠実な対応』と書きましたが、こちらが苦しい思いをしていた中で、アンケートがトドメとなり、失効に至りました」(宮下氏)

   「地方創生―」の質問などは飲食店運営との関係が薄いのではないかと指摘すると、関係は深いことを強調した。

「そもそもこのCFは飲食店をオープンするためだけでなく、水戸に納豆ご飯専門店をつくって一緒に地方創生を目指すと募集ページに書きました。CFは地方創生のプロジェクトに活用できるプラットフォームでもあります。たとえば今の時点でアンケートを送ったとして、『新型コロナウイルス禍で飲食店として○○をすれば地方創生につながる』といった回答であれば、我々としても引き続きご支援いただきたいと考えます」(宮下氏)

   確かにFAAVOでの募集ページには「地方創生の一環として、水戸で納豆ご飯専門店をオープンさせます」「茨城県だけでなく、全国各地で行われている地方創生や地域活性化に挑戦している人たちにもエールを送ることができるのではないかなと思っています」といったメッセージがある。

   とはいえ、1万円で生涯無料パスというリターンが得られるとなれば、支援して無料対象メニューだけを食べ続ける人が複数出るのは不思議ではないと思える。アンケートも先述のとおり質的・量的に少なくない負担が課される。CF募集時の説明は十分だったと考えているか。

「『無料で食べられる飲食店』と思って利用する方々がいることを考慮してプロジェクトを準備すべきだったと反省しています。CF募集ページにちゃんと説明を書くべきだったと思います」(宮下氏)

「無料メニュー以外も食べて」への同意で没収は正当になる?

   納豆社の説明を受けて、J-CASTニュースは弁護士法人 天音総合法律事務所の正木絢生・代表弁護士にもう2点、法的見解を伺った。

   1点目は、無料パス初回利用時の段階で、店舗は支援者に対し、利用規約、アンケート回答義務に加え、「無料メニュー以外も食べてコメントしていただきたい」旨を説明して同意を得ていたことで、無料メニュー以外注文してこなかったことを理由に無料パスを没収することが正当になるかどうか。

「一般論として、利用者から無料対象メニューしか頼まない場合にはパスポートを没収しうることについての『同意』があれば、当該同意に基づいて利用規約の一部として有効となり、当該行為を理由とするパスポートの没収も特に問題はないということになります。

ただし、『無料パス対象メニュー以外も食べていただきたい』旨を伝え、それに対して『いいですよ』ということが、『無料パス対象メニューしか食べない場合にパスポートを没収されうることへの同意』と解することは困難と考えられますし、初回以降も定期的に無料パス対象メニュー以外も食べるように勧めていたとしても、その点に変わりはないと考えられます」(正木弁護士)

   2点目はアンケート、特に「地方創生―」の質問について。納豆社は先述のとおり、FAAVOの募集ページで今回のCFは地方創生の意味合いがあることを示しており、店舗運営に関係が深いことを主張した。この場合、「『地方創生―』等、飲食店の支援とは関連性の薄い一部項目について―」という前回の見解に変わりはあるか。

「基本的に変わりはないと考えられます。プロジェクトオーナー側が地方創生の意味合いも込めてプロジェクトを立ちあげ、プロジェクトの募集ページにもその旨記載していたとしても、それが当然に地方創生等、飲食店のCFと関係性の薄い項目に関する、アンケートへの回答義務を正当化するとは考えづらいためです。

というのも、購入型CFにおけるリターンの提供はオーナー側の義務であり、契約内容の一部を構成するものであるため、その利用開始にあたって少なからぬ負担があるなら、その旨は明確にされている必要があるためです。

そして、無料パスポートという種類のリターンを掲げることが、当然に無条件でその利用を開始できることまでをも含意しているとは解せないため、CFをするに至った理由等についての簡単な(最低文字数もない)アンケート程度であれば、その旨の記載がなくとも利用条件として有効である可能性もありますが、プロジェクトの立ち上げに至った理由としてどういうことを掲げていたとしても、飲食店のCFと関係性の薄い項目について少なからぬ分量のアンケートへの回答義務を、利用開始の条件としてその旨の記載もないのに有効と認めることはできないと考えられます」(正木弁護士)

CAMPFIRE「事態収集に向けてプロジェクトオーナー様と出来る範囲の連携を取っていきたい」

   FAAVOを運営するCAMPFIREの規約には「購入型プロジェクトの場合、リターンの変更や中止はできません。プロジェクトオーナーは、やむを得ない事情によりリターンの内容の変更等が必要である場合には、自己の責任で支援者の個別の同意を得るものとし、同意を得られた範囲内においてのみリターンの変更を行うものとします」(16条5項)とある。なお「購入型プロジェクト」とは、売買契約をはじめとした有償契約のCFを指し、支援の対価としてリターンを提供するもののことを言う(14条1項)。

   CAMPFIREの広報がJ-CASTニュースの取材に応じた。CF募集時に明かしていない利用規約を、支援を受けてから「後出し」で提示し、その利用規約にもとづいてリターンを失効させることについて、16条5項を理由に「有効ではないです」と答えた。

   一方、今回の令和納豆のケースについては、「当社CFサービス利用にあたっては、プロジェクトオーナー・支援者の直接契約が前提となります。16条5項は契約の安全性を保つための規約であり、『リターン内容の変更・中止は原則NG、止むを得ない場合のみ支援者同意の上で変更』という趣旨となります」とし、「納豆社が制定した利用規約と弊社の16条5項とは『別物』という前提となりますので、有効・無効をジャッジする範囲外の話となります」とするにとどめている。

   そもそも「生涯無料」という性格のリターンの有効性について、CAMPFIREは「利用方法・条件の同意などを踏まえた上で有効です」としたうえで、「別論点で表現面についても現状問題ないと判断をしておりますが、誇大表現にも捉えられかねない点もございますので、その点は今後考慮します」と見通しを明かした。

   今回の令和納豆の一件に対しては、「直接契約が成立後の話ですので、弊社から直接的に仲裁するといったことはありませんが、事態収集に向けてプロジェクトオーナー(編注:納豆社)様と出来る範囲の連携を取っていきたいと考えております」との意向を示した。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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