英国内に働く遠心力
もちろん、第2次大戦時に象徴されるように、英国は、「国難」に対して強く団結し、耐えるお国柄だ。今度のコロナ禍でも、戦後初めて迎える試練に、英国は耐えて克服するだろう。
だが、こうした国内の結束について国末さんは、「気になる兆候がある」という。イングランドは段階的な制限解除にあたって、週明けの6月1日から「6人以下の面会はできる」としたが、スコットランドは5月29日から独自の行程表に基づく「フェイズ1」に入り、イングランドよりも慎重な姿勢を打ち出している。また北アイルランドは5月20日から「6人以下なら面会できる」としており、各地域がバラバラの対応を取った。もちろん自治権があり、地方の実情に合ったきめ細かな対応をすれば、対応に違いが出るのは当然かもしれない。
ただ国末さんは、ジョンソン首相が5月10日に呼びかけた段階的制限緩和の演説に注目しているという。首相は、それまで使っていた標語「ステイ・アット・ホーム(家にいよう)」を、今後は「ステイ・アラート(警戒を怠らないで)」に変えるよう呼びかけた。だが、スコットランド自治政府のスタージョン首席大臣は新たな標語を「あいまいで不明確だ」と拒否し、引き続き「家にいよう」と呼びかけることにした。北アイルランドも同様で、いつもはイングランドと同一歩調を取るウエールズも政府に従っていない。国末さんはこう話す。
「英国全体の足並みがそろわず、国内にバラバラ感が出ているように見える。今後、英国はEUとの新たな関係構築に向けて交渉に入るが、貿易協定などでまだ隔たりは大きい。今回のコロナ禍が、EUとの関係にどう響くのか、国内の遠心力にどう影響するのか、注意深く見守っていきたい」