英国失敗の教訓とは
こうした英国の失敗から、私たちは何を学ぶべきなのだろう。
第一は、政策決定のブラック・ボックス化が、政権に対する人々の不信を招き、科学者らへの信頼をも揺るがしかねない結果をもたらした点だ。意思決定をする「コブラ委員会」も、アドバイスをする「SAGE」も、メンバーすら公表せず、いつ会合を開いたかも明らかではない。メディアがこれを検証し、実態が初めて明らかにされたが、その時点ではすでに、事態はもう取り返しがつかないほど悪化していた。
第二は、ファーガソン教授が語るように、科学者は科学の許す範囲でアドバイスをするが、決定するのは政治家だという原則だ。ごく当たり前のようだが、これは科学者集団が何をどう議論して政権にアドバイスをしたのか、政権の誰が、どのレベルで何を根拠に政策を決定したのか、という記録がなければ、検証のしようがない。政策の決定責任を負えるのは、ただ政治家と官僚のみで、「科学」に判断を丸投げしたり、科学者に責任を押し付けたりすることは許されない。
第三は、政策の誤りは、ファーガソン教授や、公開書簡に署名した500人以上の科学者らがそうしたように、専門家による批判や反論の場を設けない限り、正されることはない、という点だ。これは専門家だけでなく、「言論フォーラム」を提供するメディアの役割でもあるだろう。
日本の場合に当てはめてみても、この教訓は妥当だろうと思う。第1波をかろうじて抑え込んだからといって、万事よし、とするわけにはいかない。第2波が来る前に、どんな施策が有効で、どんな施策が弊害をもたらしたのかを事実経過をもとに詳しく検証し、態勢を立て直すべき時期だろう。その意味では、政府の専門家会議の議事録を作成して公開することは、民主国家としては最低限の責務だろう。