岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
「暴徒化する抗議デモ」報道への違和感

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黒人差別への怒りがコロナで増幅

   一方で、トランプ氏は6月3日、「今のところ、軍を派遣する必要はなさそうだ」と話している。

   今回の抗議デモに便乗して暴れてやろうと、ゲーム感覚で暴動に加わった人は少なくないだろう。しかし、新型コロナウィルスの感染率や死亡率が、黒人やヒスパニックの間で高く、その影響を強く受けた。感染予防のために、経済的にゆとりのある人たちは自宅待機できた一方で、低所得者のなかには職を失った人も多い。失業、貧困、ロックダウンのストレスなどから、長い歴史のなかで差別され続けてきた人たちの怒りが、白人警官による黒人男性殺害をきっかけに、炸裂したのかもしれない。

   皮膚が黒いというだけで偏見の目で見られ、時には犯罪者扱いされる経験を、私の知り合いの黒人のほとんどがしている。そのひとりが言った。

「黒人の犯罪率が高いのは、事実だ。でも、犯罪者に仕立てられることも、重い罪を着せられることも多いんだ。貧しい人も多い。これまで僕たちは戦い続けてきたけれど、何も変わらなかった。略奪や暴力がいけないことは、よくわかっている。でもあれが、社会に対するあいつらのせめてもの抵抗なのかもしれない。そう思ってしまう自分も、いるんだ」

   米国では6月4日、「8分46秒間」の黙祷が呼びかけられた。フロイドさんが白人警官に首をひざで押さえ続けられた、長い時間だ。

「私たちが望みや夢をかなえることができなかったのは、首をひざで押さえ続けられていたためだ。私たちの首からひざをどけろ、と告げる時だ」

   ミネソタ州ミネアポリスで行われたフロイドさんの追悼式で、こう弔辞が読み上げられた。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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