新型コロナウイルスをめぐる対策で政府の支持率が下落する中、立憲民主党の枝野幸男代表が、ポストコロナ時代を見据えた「政権構想」を披露した。
「互いに支え合う社会」の実現を訴える内容だが、現時点では「うちの党内でも議論を全くしていない」という、理念レベルでの私案に近いものだ。党内外との意見交換を経て、次期衆院選までには正式な政権構想に仕上げたい考えだ。枝野氏は、ことあるごとに「永田町の合従連衡にはくみしない」と繰り返してきた。今回も党レベルでの働きかけには否定的で、どのようにして賛同を広げていくかも課題になりそうだ。
東日本大震災と原発事故以来「小さすぎる行政からの脱却」訴えてきた
枝野氏は2020年5月29日の記者会見の冒頭発言で、「支え合う社会へ」と題した構想を説明。「ポストコロナ社会と政治のあり方 『命と暮らしを守る』政権構想」というサブタイトルがついている。
まず、新型コロナウイルスをめぐる問題で「『小さすぎる行政』の脆弱さ」「新自由主義的社会の脆弱さ」が明らかになったことを指摘。具体的には、「小さすぎる行政」では「危機にマンパワーが不足する構造」「司令塔が不明確で、方針のぶれや縦割りの弊害を生む構造」「書面主義に拘泥し、迅速な情報集約・事務処理ができない構造」、「新自由主義的社会」では「活きるために不可欠はケア・サービスの脆弱さ」「社会の危機が各個人の生活の危機に直結する脆弱さ」「目先の効率性重視が引き起こす社会経済構造の脆弱さ」、といった問題点を挙げた。
その上で、今後の方向性について「互いに支え合う社会」「未来志向の分散型経済」「信頼できる機能する政府」の実現を訴えた。
枝野氏は、今回の構想の背景について、
「私は東日本大震災と原発事故を通じて、これら(小さい行政など)の脆弱性を痛感した。それ以来、小さすぎる行政からの脱却を訴えてきたが、全国規模の災害と言える、この新型コロナウイルス感染症によって、いよいよ、この小さすぎる行政、これまでの方針を大きく180度転換しなければならない、そのことの必要性は明確になった」
などと説明。具体的な政策については
「これまでに党や共同会派で示しているものを整理して、総選挙までに具体的な政策、すなわち手段やプロセスを膨らませていきたい」
とした。
「『何党が』ということではなく...」
今回発表された構想は、「政権構想」としては若干特殊だ。枝野氏は
「党として正式にオーソライズ(承認)された考え方ではない」
とする一方で、
「言い方とか整理の仕方は別として、『違ってないよね』ということは言うまでもないことだというふうに、党内を信頼しているので、そういった意味では、より幅広い、なんとか安倍さんを倒してほしい、自民党を倒してほしいという皆さんにご意見をいただきながら、収斂させていきたい」
とも。党内ではすでに大筋では理念は共有されていることを前提に、党外からも賛同を得たい考えだ。ただ、政党間の折衝に関する記者の質問については、
「『何党が』ということではなく、幅広く、今の自公政権に代わる新しい理念に基づいた政権を作りたいと期待している国民・有権者の皆さんと、幅広く意見交換していきたい」
と応じ、政党間の協議には否定的だ。「幅広い意見交換」の手段としては、ユーチューブで中継されている記者会見への反応や、「#立憲ボイス」のハッシュタグを挙げた。
枝野氏は、今回の構想を
「次の首班を目指すという使命を負っている最大野党の党首としての、私枝野個人としての党内外の思いをともにする皆さんへの呼びかけ」
だと位置づける。「野党共闘」という言葉は使わなかったが、「党内外の思いをともにする皆さん」の中には、会派をともにする国民民主党や社民党、歩調を合わせることもある共産党も含まれる、と理解する向きもある。こういった政党に対して説明していく必要性について改めて問われたが、やはり枝野氏は否定的だ。
「そういう従来の永田町的手法を取るつもりはない。もちろん、一番近くで一番一緒に戦ってもらうことになるであろう皆さんに対しては、より密接に意見交換をしていかなければならないと思っているが、こういう(記者会見の)場を作って、皆さん(記者)の前で派手に打ち上げて協議する、みたいなことは考えていない。水面下で、しっかりと実務的にこれまでも話をしてきたし、これからもしていく」
「満を持して出てきた」の指摘に「否定はしない」
枝野氏はこれまでの記者会見で、立憲が目指す戦略について問われても「与党が知りうる場所で手の内を明かしたりはしない」「戦略を外に向かって言う馬鹿はいない」などとして答えないことが多かった。今回は、それを一転させたとも言え、記者からは
「長期政権の支持率も下がったことだし、『時は今』といことで、満を持して出てきた、ということでいいのか」
という質問も。枝野氏は笑みを浮かべながら
「一種の政治戦略に関わること、『今このタイミングなのか』ということの全てはお話ししないが、そう言って受け取っていただけていることについては否定はしない」
と応じた。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)