ドラム製造などで知られる老舗楽器メーカー・パール楽器製造(千葉県八千代市、以下パール楽器)が、新型コロナウイルスの予防対策としてペダル式の「消毒液スタンド」を販売すると話題になっている。
ライブハウスが休業を余儀なくされる中、ドラムの売り上げが「厳しい状況」に置かれた老舗メーカーはなぜ商品を開発したのだろうか。
当初は公式情報なく「コラ?」の声も
パール楽器は1952年に東京・墨田区で設立。ドラムなどの打楽器やフルートの製造を主力とし、特にドラムはLUNA SEAの真矢さん、ラルクアンシエルのyukihiroさんなど人気ロックバンドのドラマーが愛用していることで知られる。
2020年5月30日、とあるツイッターユーザーが投稿したパール楽器の商品チラシと思われる画像が話題を呼んだ。商品はドラムではなく、ドラムセットのような形をしたペダル式の消毒液スタンドだ。
ペダルの形や三本足のスタンドはハイハット(ペダルを踏んで音色を変えるシンバル)さながらだが、スタンドには消毒液を置ける台が載せられている。ペダルを踏むと機器上部のプレートが下がってボトルのポンプを押し、消毒液が出てくるという仕組みで、ポンプに直接触れることなく消毒液を手に当てられる。
ツイートは6月1日12時までに2万リツイート以上拡散されるなど注目が集まった。しかし、当初はパール楽器の公式サイトに製品情報が載っておらず、ツイッター上では「コラ?」「ジョークの類じゃなくて?」と実際に販売されるのかを疑う声も出ていた。
老舗ドラムメーカーならではの「強み」
こうした中、パール楽器は6月1日に公式ブログで「新型コロナウイルス対策、二次感染予防として、ドラムセットのスタンドを『消毒液』スタンドとしてアレンジ発売」というタイトルで商品を紹介。パール楽器の正式な商品であることが明かされると、ツイッター上では「ネタだと思ってた」「本気かパール」と驚きの声が広がった。
J-CASTニュースは6月2日、パール楽器の広報担当者に取材した。商品開発の背景を聞くと、ツイッター上でハイハットを改造した「自作消毒液スタンド」の写真を見かけたのがきっかけで「楽器をやったことのない人でも組み立てやすい、工具を必要としない消毒液スタンド」を目指して作られたという。
ペダルを踏んで消毒液を出す仕組みの商品は、他のメーカーも開発している。ただ「一度に何百回、何千回とペダルを踏むものを作ってきた」と老舗ドラムメーカーならではの「耐久性」には自信があると話す。高さの調節が可能で、折りたたんで持ち運べることもあり、工事現場の内装やテレビのロケ現場など、こうした機器が常設しづらい場所でも活用できるのではないか、と期待を寄せる。
予防意識高め「音楽をリスタート」
緊急事態宣言によるライブハウスの営業自粛を受け、看板商品であるドラムの売り上げは「厳しい状況」に置かれたと担当者は話す。
「音楽活動やライブ活動が止まってしまうこと自体が我々にとっては大打撃。アーティストが音楽活動をできないというのは、楽器自体をやらないということになってしまいます」
それでも、ドラムの売り上げ減をカバーする目的でスタンドが開発されたわけではないという。
「ライブハウスに来られる方は、業種を問わず音楽を楽しんできた。この商品によって音楽業界だけではなく、様々な業種の方々の予防意識が高まることで、音楽をリスタートできるのではないか」
そんな思いから、商品は「儲け度外視」で作ったと語る。
価格は1万5000円(税抜き)。7月発売予定で、現在は全国の楽器店を通じて数量限定で予約を受け付けている。1日に販売を発表したばかりだが、すでに各メディアで取り上げられたこともあり、コンサートホールや歯医者など様々な業種から「発注が殺到している」状況だという。