ひとまず感染拡大の勢いは弱まった新型コロナウイルスだが、そのもたらした影響はなおも大きい。特に、「教育」の分野でその爪痕は深刻だ。
2020年度の開始以来、全国の大学ではオンライン授業、キャンパスへの立ち入り禁止などの措置が取られ、学生の環境は激変した。そして、なおも多くの大学で、こうした状況が続いている。
そんなコロナ禍の中で、「学費返還」を求めて声を上げる学生たち。彼らは社会に何を求めているのかを聞いた。
国からの10万円給付で5月は生計
取材に応じたのは、まず東京学芸大学の「東京学芸大学に授業料の返還と文部科学省に支援を求める会」のメンバー、原太郎さん・奥田木の実さん・佐藤雄哉さんの3人。現在署名サイト「Change.org」で署名を募り、約500人が賛同、大学側に署名を提出した。
学芸大は現在、6月一杯までキャンパスを閉鎖し不要不急の入構を禁止し、春学期の授業は全てオンラインで行うことも決定している。4月中は緊急事態宣言を受けて授業も始まっていなかった。
この状況で原さんらは、「予定していた回数分の授業ができない可能性がある」という話を大学事務から聞き、授業料の返還を呼び掛けた。大学当局と交渉し、減額幅を決めたいと考えている。
とはいえ、コロナ禍が直接のきっかけというより、「高等教育無償化」を推進していながら、そもそも学費が高いのではないか、という認識が原さんにはあった。「無償化の流れに逆行し、授業料を値上げしている大学もあります。教育をサービスの一環としてとらえているのではなく、学費の高さを問題と考えています」とのことだ。
大学からの補償は、無利子奨学金の10万円までの貸与にとどまっている。卒業学年の学部4年生・修士2年生にとっては図書館が使えないこと、また理科系・芸術系の実技授業やフィールドワークが使えないという不利益をこうむっている。
学生の場合、学業のみならず金銭面も苦しい。バイト先の休業に加え、本人だけでなく家族の収入も減った学生もいる。自身も授業料免除・奨学金の申請中という佐藤さんの場合、2つのバイト先が緊急事態宣言発令後ともになくなり収入はゼロになり、国からの10万円給付で5月は生計を立てているという。
奥田さんによれば例外的に授業などでキャンパスに立ち入る場合でも教員の承認が必要とのことで、資料代なども捻出できない状況で、「学習権が侵害されていると思います」という。授業によっては課題図書を指定し、課題を提出させるだけの「授業放棄ととられかねないような」(奥田さん)内容のものもあり、オンライン化された授業の質の違いも学生側は認識している。
「昨年までと同じ学費を払っているのに」
中央大学でも学費減額を訴える学生が取材に応じた。人文系の学部に所属するAさん(4年生)だ。中央大学でも5月一杯までキャンパスは閉鎖され、オンライン授業が始まっている。Aさんはオンライン授業そのものにはさほど不都合を感じていないものの、学ぶ権利が著しく損なわれていると憤り、学費の半額減額を主張し、オンラインで署名をつのる。
「昨年までと同じ学費を払っているのに、学ぶ機会の損失を余儀なくされています。同じ学費を払わなければいけないのでしょうか」と話す。学生は授業だけでなく、学内の図書館・研究室・サークル施設を利用するためのコストも学費として払っている。それらが利用できないのだから減額を求める、という主張だ。「(図書館での)オンラインでの資料閲覧にも限りがありますし、研究室での学問談義や友人との雑談も大学でしかできない営みです」と話した。
中央大学では学生に一律5万円を支給する特別措置を4月28日に決定したが、「5万円でオンライン授業に対応できるパソコンが調達できるかもわからないし、お詫び金のようなものは求めていません」という。Aさん自身はリモートでできるアルバイトを続けており生活に困っているほどではないが、収入が減って家賃くらいしか稼げない学生もいると聞く。
「大学側もキャンパス維持費がかかっており大変だと主張していますが、こちらも一方的に学ぶ権利を制限されています。交渉だけでもさせてほしいです」と、学生側が被る不利益を認めてほしいとAさんは訴えている。
会の要求には「基本的に応じられない」
これらの学生の訴えに対し、大学側はどう答えたか。東京学芸大学は5月22日に、「東京学芸大学に授業料の返還と文部科学省に支援を求める会」に回答した。その要旨は、会の要求には基本的に応じられないというもので、理由は授業コマ数については春学期終了時期の延期で確保できること、学生の授業料は授業以外の諸経費にも活用されており、遠隔授業の対応のために大学側も厳しい経営を強いられていること、などである。
J-CASTニュースからも東京学芸大学に改めて取材を行ったが、29日現在でも回答は得られていない。
中央大学へも同様に、大学側としてこれらの署名にどう対応するか取材を試みたが、大学側からの回答はなかった。