「いろいろ侮辱したことを謝りたい」
決して派手さはないが、薬師寺は堅実なボクシングを貫いた。辰吉の左目は中盤以降、大きく腫れあがり、視界をふさいだ。そして最終回、やや劣勢にあった辰吉が猛攻に出る。前へ前へと足を出し、打たれても打たれても打ち返す。辰吉の執念に薬師寺も気持ちで応える。世界王者同士のド突き合い。大歓声のなか試合終了を告げるゴングが鳴らされた。結果は2-0の判定で薬師寺の手が上がった。
試合直後、両者はリング上で強く抱き合った。薬師寺が勝者のコールを受けると、辰吉が薬師寺を抱え上げて勝利を称えた。リング上で再び緑のベルトを腰に巻いた薬師寺は「これで皆さんにチャンピオンと認めてもらえるのでうれしいです」と笑顔をのぞかせ、ベルトを失った辰吉は「いろいろ侮辱したことを謝りたい。想像以上に強かった」と、試合前の挑発的な発言を謝罪し完敗を認めた。
その後、辰吉は頑なに引退を拒絶し、JBCは辰吉の意志を尊重する形で条件付きでの現役を認めた。1997年11月にWBC世界バンタム級王者シリモンコン・シンワンチャー(タイ)を壮絶な打ち合いの末、7回TKOで破り再び王座に返り咲き2度の防衛を果たした。王座陥落後も世界王座返り咲きへ意欲を見せていたが、2009年3月の試合を最後にリングから遠ざかっている。