外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(6)
欧州のコロナ禍、国による違いは何だったのか

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フランスで顕在化した「不平等」

   感染が急増したのはフランスが3月10日、ドイツが3月11日で、ほぼ同じだった。対策を打ち出したのもほぼ同時期だったが、結果はかなり違う形になった。

   フランスの当初の制限はさほど強硬ではなかった。2月29日にはクラスターが確認された自治体で、不要不急の移動制限を推奨し、他の地域でも不要な旅行を勧めない程度だった。

   だが3月14日には100人以上の集会を禁じ、15日には、カフェ、レストラン、映画館、ディスコの閉鎖を決めた。16日には保育園や小中高校、大学を閉鎖し、17日には少なくとも15日間の全国的な外出禁止措置を取るという矢継ぎ早の強硬措置に転じた。しかも、フランスでは外出時に自己申告の証明書の携帯を義務付けられ、違反すると最高で135ユーロ(約1万6千円)の罰金を科された。3月24日には衛生緊急事態法が施行になり、30日間に4度違反すれば、罰金3750ユーロ、禁固6か月と罰則が強化された。

   全土にわたって罰則を含む強肩措置を取ることによって、公権力が私権を制限してでも、感染を抑え込む。一言でいえば、それがフランスの手法だったといえる。だが、5月25日現在のジョンズ・ホプキンス大による集計で、米、英、イタリア、スペインに次ぐ28390人の死者を出したフランスの政策が、有効であったとは言えない。

   ここで1点指摘しておかねばならないのは、食用品や薬品などの生活必需品の購買を除いて、全土にロックダウン(都市封鎖)の措置をとったフランス方式が、「巣ごもり」できない人に感染拡大を広げた可能性である。英紙ガーディアンは4月25日付け電子版で「パリ郊外で新型コロナが積年の不平等を増幅」という記事を掲載した。ここで使っている「郊外」は仏語の「banlieue」のことでフランスで郊外といえば、かつては共産党支持者の多い大都市郊外の貧困層が多い「赤い郊外」を指し、最近では、以前植民地だったアフリカ・マグレブ地方からの移民の2世、3世が多い公営住宅街を指すのが一般的だ。

   ガーディアン紙によると、パリ北東部の郊外にあるセーヌ・サンドニ県では死亡率が昨年より63%増加している。約160万人が住む同県では3割近くが最貧層で、失業率が高く、罹患率も高いのに、一人当たりの医者の数は全国でも最も少ない。移民が多数を占め、清掃や建設、小売りなどの現場の仕事に就いている人が多い。

   こうした人々は、都市が封鎖されても、ライフラインを守るために、働くことを期待され、また家族の暮らしを守るため、感染のリスクに身をさらしても、働かざるを得ない。しかも、メトロなど、足は公共交通機関に頼るしかない。

   いったん感染すれば、人口密集地域にウイルスが広がり、医療現場は崩壊する。新型コロナが、ふだん見えない長年の「不平等」を増幅させ、顕在化させたという指摘だ。

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