「この捜査の目的は何なのか」
弁護団の勧めもあり、フリン氏は一時、罪を認めて、司法取引に応じた。しかし、FBIの捜査に疑問を抱いたシドニー・バウエル氏を新たな弁護士として雇い、捜査は不正だったとして、無実を主張した。
ウィリアム・バー司法長官は2020年に入り、新たな検事を任命し、捜査見直しを指示した。
そして、つい最近、この事件は衝撃な展開を見せた。2020年5月7日、FBIの捜査は「合理的な根拠がないまま行われた」として、司法省がフリン氏に対する偽証罪の起訴を取り下げたのだ。
起訴取り下げの決定を受けて、パウエル弁護士は、「FBIは正式な取り調べではないように見せかけ、曖昧なことを言っても虚偽証言にはならないように思わせ、フリン氏をリラックスさせて、罠にかけたのです」と話している。
米メディア複数の報道によると、捜査担当者のやり取りを記した内部資料が、2020年4月下旬に見つかった。2017年1月24日付の手書きのメモには、「この捜査の目的は何なのか。真実を自白させることか。偽証させて訴追することか。(補佐官を)辞任させることか」と書かれていた。
トランプ氏は、「彼は罪のない男だ。大統領を辞めさせようとする動きのなかで、彼が狙われた」と話している。
最近になって、「ロシア疑惑」と「オバマ疑惑」に関する資料が、次々と公表、報道されている。
次回以降のこの連載では、フリン氏と駐米ロシア大使の電話会談(2016年12月)の黒塗り解除を申請した人のリスト、オバマ前大統領が退任する直前(2020年1月)に側近を集めて会議を開いた時に、当時のスーザン・ライス大統領補佐官がライス氏自身宛に送ったメールについて触れる。また、一連の疑惑に対する民主党側の声を取り上げたいと思う。(この項、続く。随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。