トヨタの見通しに「さすが」VS「楽観的すぎ」 「21年3月期」予想の読み方

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   トヨタ自動車の決算が注目を集めている。と言っても、2020年3月期の実績以上に世間にショックを与えたのが21年3月期。連結営業利益(国際会計基準)が前期比2兆円(79.5%)減の5000億円になりそうだというのだ。

   販売が「コロナまえ」に戻るのは年末以降と見て、世界販売台数の計画を前期比155万7000台(15%)減の890万台とした。コロナの影響の大きさを示す数字だが、それでも研究開発費は前期並みの1兆1000億円を確保したうえでの営業黒字とあって、かえってトヨタの強さを示すものとみる向きもある。

  • 今後の株価の動向に注目が集まる。
    今後の株価の動向に注目が集まる。
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「企業体質が少しずつ強くなってきた」

   2020年3月期連結決算(米国会計基準)は、売上高が前期比1.0%減の29兆9299億円、営業利益が同1.0%減の2兆4428億円、最終利益は同10.3%増の2兆761億円と堅調だった。グループの世界の総販売台数は1045万7000台(14万6000台減)でトップに返り咲いた。

   ここから一転、2021年3月期の予想は、販売台数890万台で、8年ぶりに1000万台を割ると見込む。最終利益は算定が困難として「未定」とした。この予想をどう読むか。豊田章男社長は今回(5月12日)の決算発表のテレビ会見で現状を「リーマン・ショックよりもインパクトがはるかに大きい」と述べている。金融市場を中心とするリーマンに比べ、コロナ・ショックは世界中の生産が急に止まったことをさしている。08年9月に起きたリーマン・ショックから1年間のトヨタのグループ販売台数は110万台減少し、09年3月期決算は4610億円の営業赤字に転落した。当時のトヨタは拡張路線で投資拡大による固定費の膨張が業績を直撃した。

   その後も米国を中心とした大規模リコールや東日本大震災などの試練に直面したが、トヨタ式生産方式による徹底した効率化で乗り越えてきた。今回も、リーマン時を上回る販売減ながら、営業黒字を見込むのは「企業体質が少しずつ強くなってきた」(豊田社長)ことの証しといえる。

   ただ、生産・販売が順調に回復していくかは未知数だ。トヨタは4~6月の販売は前年の6割、7~9月は8割、10~12月は9割、年末から年明けには前年並みになるとの回復のシナリオを描く。これに対応する生産も、国内は5月が計画の5割、6月は6割にとどまり、7月以降、徐々に回復していくとみる。海外も、中国は通常に戻りつつあるが、北米の正常化は年末から年始、欧州も2021年にずれ込む見通しだという。

「第2波」「第3波」への懸念

   ただ、例えば米国工場では、メキシコがコロナ対策で工場の稼働を認めていないため、部品供給に懸念が残る。欧州でもフランス、ポーランドなどの域内の工場を順次再開しているが、「3密」を回避するため一度に働く人数を絞るなど、まだ手探り状態で、フル稼働には程遠い。

   さらに、秋以降に予想される感染拡大の「第2波」「第3波」の度合いによって、計画通り生産・販売が回復しない可能性がある。

   こうした厳しい状況でも、研究開発費を減らさない。自動車業界は「100年の1度の変革期」といわれ、「コネクティッド(接続)化」「自動運転化」「電動化」「シェア・サービス化」を巡って世界のIT大手の参入などで新技術開発への投資競争が激しさを増している。例えば電気自動車(EV)では米テスラが先行している。また、完全自動運転で送迎するライドシェアサービスを2018年末に始めた「ウェイモ」はグーグルの傘下で、同社の研究開発費は年間2兆円規模。「企業の体力によって開発力の差が広がる」(大手紙経済部デスク)とあって、業界の垣根を超えた競争激化の中、自動車業界の雄であるトヨタといえども安閑とはしていられないということだ。

   決算を受けた東京株式市場の反応は微妙だ。発表は5月12日の取引時間中で、トヨタ株の終値は前日比131円安、翌13日は143円安、14日も129円安とジリジリ下げ、その後は一進一退の展開だ。発表前の2021年3月期の営業利益に関する市場予想の平均は1兆7000億円で、これを大幅に下回る発表で、失望を買ったのは確かだが、業績見通しを明らかにしない会社が多い中で、営業利益だけでも発表し、「基準を示すことで関係会社が何かしらの計画や準備ができると考えた」(豊田社長)という姿勢が評価され、株価が踏みとどまったとの見方がある。開発投資の維持も評価されている。

   ただ、それでもコロナウイルスの感染終息・再拡大の行方が見えない中、「見通しはやや楽観的過ぎるのでは」(アナリスト)との指摘もあり、株価は神経質な展開が続きそうだ。

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